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テレビで「番組卒業コーナー」が乱発する理由 「大げさ」「やりすぎ」は想定内?

「スッキリ」「ヒルナンデス!」「東大王」「王様のブランチ」…多くのテレビ番組で「番組卒業コーナー」が放送。背景を筆者が解説します。

近藤春菜さん
近藤春菜さん

 今春は例年に比べて、長寿番組の終了や主要出演者の交代などテレビ番組の動きが多く、連日、さまざまなニュースが報じられています。

 中でも気になるのは「番組卒業」にまつわるニュース。「とくダネ!」(フジテレビ系)のような長寿番組の終了に合わせて盛大なお別れ企画を放送するのなら理解できますが、このところ、出演者の交代を「番組卒業コーナー」として放送することが定番化しているのです。

 主な番組を挙げると「スッキリ」(日本テレビ系)、「ヒルナンデス!」(同)、「ZIP!」(同)、「東大王」(TBS系)、「王様のブランチ」(同)、「ジョブチューン」(同)などが番組卒業にちなんだコーナーを放送していました。

 ネット上には「ただの人事異動でしょ」「クビを卒業に言い換えるな」などという疑問の声も上がる中、なぜ、「番組卒業」コーナーは作られ続けているのでしょうか。

感動と涙の演出はファンサービス

 最大の理由は「感動や涙などのドラマチックなシーンを作れる」からであり、それを見せることで「番組と出演者のファンサービスになる」から。

 例えば、「スッキリ」は今春で番組を離れるハリセンボン・近藤春菜さんと水卜麻美アナのために、加藤浩次さんとの卒業旅行を企画したり、東京スカパラダイスオーケストラ、田島貴男さん、森山直太朗さん、宮本浩次さんの特別リレーライブを行ったり、日本の有名人だけでなく、ジョン・ボン・ジョヴィさん、アヴリル・ラヴィーンさん、スティングさんらからも惜別メッセージをもらうなどの番組卒業コーナーを毎日放送。サプライズを受けるたびに2人は驚き、涙を流していました。

 また、「東大王」は早い段階から、鈴木光さんと林輝幸さんの卒業まで「残り〇回」とカウントダウンを始めた他、最後は本編の後に東大王メンバー同士の「涙の送別早押しマッチ」やメッセージを送り合うシーンをたっぷりと放送しました。

 ただ、このような感動や涙のシーンは番組のファンを大きく喜ばせる一方で、その他の人々から、「大げさ」「やりすぎでは?」などと思われるなど視聴者の温度差を生みやすい構成・演出。中には「お涙ちょうだいは要らない」「これも感動ポルノ」などと厳しい言葉を浴びせる人もいる“もろ刃のつるぎ”とも言えます。

 そこで見逃せないのは、番組サイドの「改編期までは、見続けてくれた熱心なファン向けのコーナーを放送し、新たなファンの獲得は改編期のリニューアル後でいい」という割り切った感覚。「大げさ」「やりすぎでは?」と思われることは想定内であり、それを分かった上で「見続けてくれたファンへのサービスをしよう」という割り切りがあるようなのです。

「温かい」「結束が強い」の好印象

 そして、もう一つの主な理由は、番組卒業コーナーを放送することで、「温かい番組」「チームワークがいい」「ファミリーの結束が強い」などの好イメージを視聴者に与えられるから。

「番組を離れる個人のために多くの出演者とスタッフが結束して、時間と労力をかけた企画を用意する」という過程も「本人がそれに感動し、心から感謝する」という図式も古くから、「日本人の琴線に触れる」と言われ続けてきた定番。特にコロナ禍の重苦しいムードに覆われた現在は通常時以上に人の温かさや仲の良さなどが求められている時期だけに、番組卒業コーナーは効果的なのです。

 最近では「スッキリ」「ヒルナンデス!」のように、毎日、大きな番組卒業コーナーを放送することでお祭りムードを醸し出すケースも少なくありません。特にその傾向が強いのは日本テレビで、「番組卒業コーナーを一つのコンテンツにしよう」という意識が局に浸透しているように見えます。

 ただ、あまりに定番化しすぎると「分かっていて泣いているのでは?」「本当はそんなにうれしくないんでしょ?」などと思われてしまうという課題があるのも事実。冒頭に挙げたように「ただの人事異動」「成績不振によるクビ」という感も否めないだけに、さじ加減を間違えないバランス感覚が必要でしょう。

(コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志)

木村隆志(きむら・たかし)

コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者

雑誌やウェブに月間30本前後のコラムを寄稿するほか、「週刊フジテレビ批評」などに出演し、各局のスタッフに情報提供も行っている。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアー、人間関係のコンサルタントとしても活動中。著書に「トップ・インタビュアーの『聴き技』84」「話しかけなくていい!会話術」など。

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