営業時間短縮は要請済み…「緊急事態宣言」で何が変わる? 店名公表で行列?
緊急事態宣言が発令されると、知事が飲食店などに休業や営業時間の短縮を要請できるとされていますが、既に大都市圏では時短要請が実施中です。宣言で何が変わるのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の再拡大を受け、きょう1月7日にも緊急事態宣言の再発令が決まる見通しです。対象は東京都と埼玉、千葉、神奈川の3県で、宣言が出れば、知事が飲食店などに休業や営業時間の短縮を要請できるとされていますが、既に大都市圏での営業時間短縮要請は実施中で、宣言によって何が変わるのか、分かりにくい面もあります。緊急事態宣言について、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
「お願い」から「要請」「指示」へ?
Q.緊急事態宣言が出ることによって、何が変わるのでしょうか。
佐藤さん「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)に基づく緊急事態宣言が発令されると、まず、都道府県知事(今回の場合は1都3県の知事)が住民に対し、不要不急の外出自粛を『法的根拠』に基づいて要請できるようになります(特措法45条)。『緊急事態宣言下で、法律に基づいて要請する』ことにより、人々の危機感が高まり、行動が変わることを期待しての発令となります。
そのほか、知事は学校や福祉施設、遊興施設などの使用を制限するよう『要請』できるようになり、新たに『指示』も可能になります。『要請』『指示』に従わない店舗については店名を公表できるようになります(同45条)。同様に、イベントの開催についても制限するよう『要請』『指示』を出せるようになります。一定の運送事業者に、緊急物資の輸送の『要請』『指示』を出すことも可能になります。
ここまでは『要請』『指示』にとどまりますが、緊急事態宣言が発令されることで、知事が『強制』できるようになることもあります。それが、臨時の医療施設を開設する際、必要となる土地や建物を強制的に使用できるようになるということです。そして、医療用品やマスク、食品などを売り渡すよう企業に対して要請し、これに従わなければ、収用(強制的に取り上げること)や保管命令を出せるようになります」
Q.飲食店への営業時間短縮要請は既に実施中ですし、さらなる時短要請も決定済みです。宣言によって何が変わるのでしょうか。
佐藤さん「緊急事態宣言発令前になされている、飲食店への営業時間短縮要請は特措法24条に基づく『お願い』です。緊急事態宣言が発令されても、現状では、飲食店への時短要請はこの『お願い』のままになってしまいます。なぜなら、先述した通り、現在、特措法45条に基づき、施設の使用制限の要請や指示ができるのは学校や福祉施設、遊興施設などで、一般的な飲食店は含まれていないからです。
使用制限の要請や指示を出せる対象業種は政令で定められています。そこで、政令を改正し、今回、緊急事態宣言が発令された場合、一般的な飲食店に対しても特措法45条に基づく使用制限の要請や指示ができるようにするとみられています。45条に基づく要請や指示がなされれば、従わなかった飲食店の店舗名を公表できます」
Q.4~5月の緊急事態宣言の際、休業要請に応じないパチンコ店が複数ありました。店名も公表されましたが、かえって、それらの店に行列ができるという事態も起きました。宣言に実効性はあるのでしょうか。
佐藤さん「従わない店舗名の公表は一般に、市民への情報提供や行政指導などの実効性を確保するために行われます。それが事実上、従わない者への『制裁』として機能することもあります。『社会の一員として、自主的に従おう』という意識を働かせる効果が期待でき、一定の実効性が見込めるといえるでしょう。
昨春のパチンコ店のケースでも、一時的に、一部の営業している店に客が集中するという事態が起きましたが、そうした状況が広く報じられたり、行政が粘り強く対応したりする中、店名が公表された店も含め、結果的には、ほぼすべての店が要請や指示に従うようになりました。
飲食店の場合も、時短要請に従わずに遅くまで営業している店の名前が公表され、夜に集まりたい人たちがそうした店に集中する事態が起きる可能性はありますが、首都圏住民への、夜の不要不急の外出自粛要請ともあいまって、一定の実効性が期待できるのではないかと思います」
Q.一般の飲食店は「ライフライン」としての位置づけもあると思います。酒類を提供しない飲食店もすべて時短対象に含まれると市民生活にも影響する可能性がありますが、法的に問題はないのでしょうか。
佐藤さん「一般の飲食店は私たちの日々の生活を支えるものとして機能し、人によっては生活になくてはならないものでしょう。しかし、飲食の場での感染リスクが高いことが明らかとなった今、酒類を提供しない店を含む飲食店への時短要請は感染拡大を防ぐために致し方ないものだと思います。飲食店の営業時間が短縮されたとしても、生活に不可欠な食料品はスーパーやコンビニで購入できることから、すべての飲食店を時短対象に含めたとしても、市民の法的権利を侵害したとまではいえないでしょう」
Q.緊急事態宣言の発令は12月中から医療関係者が求め、1月2日に首都圏4知事が求めても、菅義偉首相をはじめとする政府は慎重で、決まるまでにかなりの時間を無駄にしてしまったように思います。発令が遅くなったことによる問題点があればご指摘お願いします。
佐藤さん「緊急事態宣言の発令の遅れ、そして、その前のGoToキャンペーン全国一斉停止の判断が遅れたことで、国民の間でなかなか危機感が共有されず、感染拡大が進み、医療崩壊に近づいてしまったという問題はあると思います。
政府は当初、特措法の改正を優先させる方向だったようですが、通常国会が開会するまでに間がある上、たとえ国会が始まっても、法律の改正には一定の時間がかかります。緊急事態宣言は現行の法律のもとで政府ができる国民への最大のメッセージであり、発令によって、『感染拡大の危機にあること』を伝え、若者や事業者を含めた立場の異なる国民全員が危機感を共有することにつながるものです。
遅かったとへの批判はあるものの、これ以上遅れる可能性もあったことを考えると、このタイミングで発令が決定されることは不幸中の幸いではないでしょうか」
Q.小池百合子都知事が不要不急の外出や会食の自粛を求めていた年末年始も、都内の繁華街では深夜に騒ぐ若者たちの姿が見られました。緊急事態宣言が発令され、外出自粛要請が出ても従わない場合、法的に何か規制はできるのでしょうか。できない場合、どのような法改正、もしくは政令改正が必要なのでしょうか。
佐藤さん「現状では、緊急事態宣言下での外出自粛要請に従わなかったとしても法的に規制することはできません。また、日本国憲法には『国家緊急権』(戦争や大災害などの有事に、政府が憲法秩序を一時停止して緊急措置を取る権限)の規定がないこともあり、今後も法的に個人の行動を直接制約することは困難だと考えられています。
そこで、感染拡大を招きやすい場所(マスクを外しての飲食、会話などができる場所)の営業をより強力に制限できるよう、特措法を改正する議論がなされています。先述した通り、政令が改正されたとしても、営業自粛の要請や指示に従わなかった場合に店名公表しかできませんので、特措法を改正し、罰則を設けることが検討されています。もちろん、同時に、営業自粛に従った店舗への財政支援についても法に明記する方向で話し合われています。
罰則は『営業の自由』という人権に対する大きな制約になるため、賛否両論あります。適切な補償により実効性を確保できるなら、罰則は避けるべきだと考えますが、罰則といってもいろいろな種類があるため、実効性確保とのバランスを見ながら検討していく必要があるでしょう」
(オトナンサー編集部)
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