名前を聞くとしぼむクレーマー、「匿名」で強気になる人の心理とは?
いわゆる「クレーマー」への対応策として、名前を尋ねると効果的だそうです。匿名で強気になる心理と名前を聞くことの効果について、専門家に聞きました。
「しつこく文句を言う」「暴言を吐いて、相手を威圧する」。仕事などで、このような「クレーマー」と接する機会のある人もいることでしょう。
ところで、クレーム対応を行う現場では「履歴などからクレーマーの名前を特定し、電話口で名前を確認すると相手が一気にトーンダウンした」「店頭で『上の者から改めて謝罪しますので…』と伝え、名前と連絡先を聞くと相手が気まずそうに去っていった」など、相手の名前を尋ねることで効果的に対応できるケースもあるようです。
ネット上では「理不尽なクレームには効きそう」「匿名だから、好き勝手言えると思っているんだろうな」「匿名のときだけ強気なのはネット上も同じ」など、さまざまな声が上がっています。匿名が通用する環境で強気になりやすい人の心理について、心理カウンセラーの小日向るり子さんに聞きました。
言動に責任を持たせること
Q.一般的に、クレーマーの、相手に文句を言いたい心理とはどのようなものでしょうか。
小日向さん「相手に文句を言いたいという心理は、精神医学者のフロイトが唱えた『防衛機制』という心理メカニズムで解釈できます。防衛機制には『逃避』『同一化』『抑制』『退行』『反動形成』『投影』『昇華』などがあります。
例えば、理不尽なクレーマーの代表的なものは防衛機制の中の『逃避』であることが多いです。現状が苦しいために、自分以外の他のものに心的エネルギーを注いで、紛らわそうとしているのです。また、他人を引き連れたり、背後の存在をにおわせて圧力をかけたりするなど、いわゆる脅しの手法で文句をつけてくるタイプは、防衛機制の中でも『同一化』が強く働いていると考えられます。同一化とは、自分一人では不安なので自分以外のものと融合した一体感を持とうとすることです。
防衛機制自体は自我を安定させるために誰もが持っている心理なので“悪”ではありません。しかし、自分の自我を安定させるために、他者を不快にさせてよいということはありません。そうした意味で、クレーマーの真理は『過剰な自己防衛』『ゆがんだ自己防衛』であるといえます」
Q.相手の名前を尋ねる、声に出して相手の名前を言うことで、文句を言っていた相手がトーンダウンしたり、文句を言うのをやめたりすることがあるようですが、これはなぜだと思われますか。
小日向さん「名前を聞くことは『相手の言動に責任を持たせる』ということです。従って、名前を尋ねた途端に相手の発言がトーンダウンしたり、文句がおさまったりした場合は『責任を問われ、無責任に発言をしていたことに気付いて怖くなった』という心理状態になったと考えられます。そのため、懲罰や社会的批判を理解しつつも無責任に発言をしている人ほど、この『恐怖』は大きくなるといえるでしょう」
Q.匿名が通用するときだけ、相手に対して強気になるのは、どのような心理によるものなのでしょうか。
小日向さん「そもそも、他人に対して強気になるときとは先述したように、自己防衛心が強かったり、闘争心が高かったりするときであり、心にストレスがかかっている状態です。そのストレスを発散するために他人を巻き込むのであれば、自分自身も痛みを伴う覚悟が必要になります。しかし、匿名の人はその覚悟が希薄です。つまり、匿名のとき“だけ”強気になる人には『ストレスは発散したいけれど、自分が痛みを伴うのは嫌だ』という自己中心的な思考があるといえます」
Q.名前を呼ぶ行為が特に効果的だと考えられるクレーマーのタイプ・特徴などはありますか。
小日向さん「大きく分けて、次の2つのタイプに有効だと考えられます。一つは言動が犯罪行為になり得るなど、悪質性が高いクレーマーです。このタイプは名前を呼ぶことによって、発言の責任を明確に意識させるため、これ以上の暴走を防ぐために効果が期待できます。
そして、もう一つはいわゆる『かまってちゃん』タイプのクレーマーです。このタイプは基本的に寂しがり屋で、常に他者からの承認を求めています。名前を呼ぶという行為は『私はあなたの言葉を認めていますよ』という承認の行為でもあります。自己の承認欲求が満たされることでクレームの戦意がそがれ、その後の対応によっては対話者に親和感情を抱き、逆に穏やかになることも考えられます」
Q.匿名が通用する環境で強気になりやすい人はクレーマーのみならず、昨今のネット上にも多くいると思われます。場合によっては大きなトラブルにも発展しかねない、匿名で強気になる心理と、本人や周囲がうまく付き合っていくコツとは。
小日向さん「まず、匿名で強気な発言をしている人をあおらないことを心掛けてください。匿名といってもネット上ではアカウント名やユーザーネームなどを使い、『匿名だけども特定の個人』として大きな影響力を持つ人が存在します。こうした形で存在する人の発言は気軽に同調してしまいがちです。書き込んだ人は現実社会を生きている『人間』ですが、それがアカウント名やユーザーネームという“よろい”によって、ぼやけてしまうのです。
しかし、彼らは架空の人物ではありません。彼らに犯罪となり得る言動があれば、あおった人も罪に問われる可能性はあります。これは自身がそのような存在である場合もしかりで、匿名の場合、自身の発信に対する同調が多くなると勢いがついてしまう傾向があります。
匿名であってもハンドルネームであっても、発信者は全員、社会に存在しているリアルな『人間』です。それを忘れないことが、あおりたくなる気持ちを防ぐ上で重要だといえるでしょう」
(オトナンサー編集部)
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