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「迷惑」「来ないで」と批判も…パチンコ店に行った人の診療は断れる?

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、営業を継続したパチンコ店に批判が集まりました。医療機関は、パチンコ店に行った人の診療を断ることはできるのでしょうか。

店名公表後も営業を続けたパチンコ店に並ぶ人々(2020年4月、時事)
店名公表後も営業を続けたパチンコ店に並ぶ人々(2020年4月、時事)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、自治体から再三、法に基づく休業要請があったにもかかわらず、一部のパチンコ店が営業を継続し、ネット上では「迷惑」「医療関係者のことを考えて」など批判の声が寄せられました。また、医療従事者と名乗る人物が「パチンコ店に行くなら、体調が悪くなっても病院に来ないでほしい」といった内容をネットで投稿したケースもあります。

 もし、新型コロナウイルスと疑われる症状の人が、パチンコ店など感染リスクが高い場所に行っていた場合、医療機関は診療を断ることができるのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

医師法が定める「応招義務」

Q.そもそも、医療機関が患者の診療を断ることはできるのでしょうか。

森さん「正当な理由がなければ断ることはできません。医師は『医師法』によって職務や資格が定められていて、同法には『診療に従事する医師は、診療治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない』(19条1項)とあります。つまり、医師には『応招義務』が課せられているのです。

しかし、『正当な事由』がある場合は、例外的に診療を断ることが認められます。正当な事由とは、例えば、『時間外に診療を求められた』『専門性・診療能力、医療の代替可能性、設備状況などから事実上診療が不可能である』『言語が通じないため診療行為が著しく困難である』などの理由です」

Q.医療機関は、パチンコ店など感染リスクが高い施設に行った後に体調が悪くなった人の診療を断ることはあるのでしょうか。

森さん「厚生労働省の通達によると、発熱やせきなど新型コロナウイルス感染症の特徴的な症状があるということだけを理由に診療を断ることは、『診療拒否の正当な事由に該当しない』とあります。感染リスクの高い場所に行ったことだけでは、診療を断る正当な理由にはならないともいえます。

ただし、その患者に感染の可能性があると判断できる場合で、感染予防のためのマスクやゴーグル、ガウンなど適切な防護具が不十分であることや、検査体制が整っていないために、診療が困難であり断らざるを得ないこともあります。

そうした場合は、ただ断るのではなく、『帰国者・接触者相談センター』や近隣の新型コロナウイルス感染症患者を診療可能な医療機関、独自に『発熱外来』を開設している医療機関などを紹介し、受診するようすすめることが求められます」

Q.それでは、診療後、患者がパチンコ店のような場所に通っていたことが分かった場合、医療機関は再診や入院を断ることはあるのでしょうか。

森さん「再診や入院が困難であるという正当な理由があれば断ることは可能ですが、その人の感染のリスクがどのくらい高いか、根拠を持って判断することは難しいと思われます。

しかし、いわゆる『3密(密閉、密集、密接)』と言われる感染リスクの高い場面にいたことが分かり、発熱やせき、息切れなどの症状があったり、画像検査で肺炎が疑われたりする場合は感染の可能性が考えられるため、PCR検査前であっても『陽性疑い患者』としての感染予防策が必要になります。

他の患者と動線を分けることや時診療間を分けるなどの対応、入院であれば、少なくとも個室環境での治療が求められます。難しい場合は自院での再診や入院を断り、他の医療機関を紹介するという対応を取る場合もあるでしょう」

Q.感染リスクの高い場所に行っていた人が医療機関で診療を受けた場合、医療機関から訴えられるリスクはあるのでしょうか。

森さん「患者の行動と感染の因果関係、その患者が受診したことと医療機関が受けた損害の因果関係が証明できれば、医療機関が患者を訴えることも可能ではあるでしょう。

先日、新型コロナウイルス感染症の疑いがある男性が、PCR検査を受けたことを隠して他の診療所を受診し、後から陽性が判明する出来事がありました。これにより、診療所が2週間程度休診に追い込まれました。

もし、院内感染が起きてこの診療所の医療従事者や患者が複数感染したとなれば、大きな損害につながることもあり得ます。そうした場合、訴えられる可能性はゼロではありません。地域の医療崩壊につながる恐れもありますので、感染リスクの高い行動が思い当たる場合は、事実をありのままに説明することが大切です」

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森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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