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ナイツ塙ベストセラー本も! 芸人たちが、かつて忌避した「お笑い語り」を始めた理由

家電製品を語るだけでも面白い

 なぜ、このような芸人のお笑い語りが注目されているのでしょうか。最大の理由は、それが面白いからということに尽きるでしょう。「アメトーーク!」では、この手の企画をやる前から、芸人が自分の趣味や好きなものについて熱く語るという企画が定番になっていました。社会現象的なブームになった「家電芸人」などもその一例です。

 単におすすめの家電製品を語っているだけでも、プロの芸人は普通の人とは違う切り口で、笑いを交えて面白おかしくトークをすることができます。芸人が笑いを語るのも、基本的にはこれと同じです。彼らのような笑いのプロの手にかかれば、笑いを真面目に語ること自体が面白くなるのです。

 そもそも「芸人がお笑いを語るのはタブーである」という風潮は、今ではなくなりつつあります。芸人の地位が上がり、お笑いの楽しみ方が多様化してきたため、裏側を多少見せたからといってお笑いの魅力が損なわれることはない、というふうに考えられるようになってきたからです。

 例えば、ダチョウ倶楽部や出川哲朗さんのようなリアクション芸を得意とする芸人は、一昔前までは世間から見下される存在でした。出川さんは雑誌の「嫌いな芸人」「抱かれたくない芸人」といったランキングの常連でした。

 しかし、最近ではむしろ「リアクション芸も一つの立派な芸である」と認識されています。彼らの職人としての実力が再評価され、出川さんは今や、子どもたちにも愛される人気者になりました。テレビに出る芸人が増えて芸人の地位が上がった結果、お笑いに対する世間の理解が深まり、楽しみ方も多様化してきたのです。

 芸人のお笑い語りが受け入れられているのも、そのためでしょう。お笑いは何も考えずに見ても楽しいし、理屈をじっくり考えながら見てもやっぱり楽しい。そんなことでは、お笑いの価値は損なわれないということが明らかになってきたのです。

 かくいう筆者自身、お笑いについて考えたり、芸人がお笑いについて語るのを聞くのは好きですが、そのことで、お笑いそのものが楽しめないということはありません。むしろ、楽しみ方がどんどん広がっているという実感があります。

 お笑いを語るのは芸人としては邪道、という考え方はもう過去のものです。現代のお笑いは、いろいろな形で楽しめるのが魅力なのです。

(お笑い評論家 ラリー遠田)

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ラリー遠田(らりー・とおだ)

作家・ライター/お笑い評論家

1979年名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ、お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。「教養としての平成お笑い史」(ディスカヴァー携書)「とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論」(イースト新書)など著書多数。

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