「長いお別れ」中野量太監督に聞く、“家族”にこだわり続ける理由
最新作「長いお別れ」が公開される中野量太監督にインタビュー。原作を映画化した理由や、「家族」が題材の映画を作り続ける理由などを聞きました。
映画「湯を沸かすほどの熱い愛」で「日本アカデミー賞」優秀監督賞などを受賞した中野量太監督の最新作「長いお別れ」。同作は、父・昇平(山崎努さん、「崎」は正しくは「たつさき」)の70歳の誕生日に集まった長女・麻里(竹内結子さん)と茉美(蒼井優さん)は、父が認知症になったことを母・曜子(松原智恵子さん)から告げられます。日に日に記憶を失っていく父に戸惑いながら、それぞれが自分自身を見直していく…中島京子さん原作の実写映画化です。
オトナンサー編集部では、中野監督にインタビューを実施。原作を映画化した理由や、「家族」が題材の映画を作り続ける理由などを聞きました。
「今、撮るべきもの」を撮る
Q.原作のどこが気に入って映画化しようと思われたのでしょうか。
中野監督(以下敬称略)「僕が撮りたい映画の条件に、『今、撮るべきもの』というのがあります。この原作を読んだ時に、認知症は祖母もそうだったし、これから誰もが関わる題材だと感じたので、これは今、映画化しなければと思いました。
家族の描き方でも、状況が厳しい中で家族がその中で懸命に生きて、その懸命さが時に滑稽だったり、いとおしかったりするところに引かれます。原作は、父親が認知症になり、厳しい状況で一生懸命助け合いながらやっていく中、笑ってしまうところもあったので、描きたかった世界と似ているなと思いました」
Q.演出にあたり、準備段階からやっていたことはありますか。
中野「僕の仕事は、俳優やスタッフがやりやすいようにすることだと思っています。いつも家族を描くので、家族を演じる上でどうするのがやりやすいかなと考えました。
プロの俳優なので、その日初めて会っても家族の演技はできるんですよ。ただ、初日から家族の雰囲気を感じながら演じられたら、映るものも違ってくると信じています。そこで思いついたのが、映画の冒頭がお父さんの70歳の誕生日なので、撮影前に3年前の67歳の誕生日会を開きました。ハウススタジオを借り、ケーキも67歳バージョンを作って誕生日会兼親睦会を含めてやりました」
Q.映画化にあたり、気を付けたことは。
中野「原作の映画化は初めてでしたが、借り物をやる気はありませんでした。完全に自分の中を通して、オリジナル作品の気持ちでオリジナル要素もかなり入れながらアウトプットしました。
最終的に、どこがオリジナルで、どこが原作か、自分でも分からなくなるくらいそういう作業をしたので、あまり借り物で作った感じはしません。そこはすごく気を付けたつもりです。スタッフやキャストに『ここどうなの?』と聞かれ、『原作がこうだから』と答えたらアウトなので、全部答えられるように消化して挑みました」
Q.終盤、原作でも「long goodbye」という単語が出てきます。原作の意図なども腑(ふ)に落ちましたか。
中野「原作のラストシーンが大好きです。普通の物語だと、主要キャラで終わるんです。そこじゃないところで終わるのがいいと思いました。最初、プロデューサーに反対されましたが、そこに感動して『long goodbye』の意味も分かったので、どうしてもやりたいと言いました」
Q.「家族」をテーマに映画を撮り続けていらっしゃいます。
中野「自分が知っているもの、興味あるもので撮っていて、『家族って何だろう』とずっと考えているところがあります。母子家庭で母に育てられ、いとこが兄弟のように過ごしてきたので、『this is 家族』という感じではありません。ただ、その家族に救われてきたという思いがあります。だから、『家族』の話をやりたくて仕方ないんですよね」
映画「長いお別れ」は5月31日から全国公開。
(オトナンサー編集部)
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