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自閉症の息子に立ちはだかる「夏休みの宿題」 母が感じた迷い…とメリット

知的障害を伴う自閉症がある8歳の息子を育てる女性ライターが、夏休みの宿題事情について解説します。

息子の夏休みの宿題は親への宿題(べっこうあめアマミさん作)
息子の夏休みの宿題は親への宿題(べっこうあめアマミさん作)

 ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある8歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の4歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 現在、多くのお子さんにとって気がかりなのが、「夏休みの宿題」だと思います。親御さんたちは、お子さんの宿題の進捗(しんちょく)に気を使うのではないでしょうか。ただ、特別支援学校に通うアマミさんの息子の夏休みの宿題は、少し特殊です。アマミさんが、意外と知らない特別支援学校の夏休みの宿題事情をお伝えします。

学期中は宿題なし

 私の息子は、特別支援学校に通う小学3年生です。一般的に、小学校では普段から宿題を出されると思いますが、特別支援学校では基本的に宿題は出されません。

 正確には、宿題を希望する子には出されることもあるとは思いますが、少なくとも息子は、これまで学期中に宿題を出されたことがありません。

 不思議に思われるかもしれませんが、特別支援学校で学ぶことの目的は、国語や算数といった教科の学習よりも、身の回りの自立やコミュニケーションなどがメインです。そのため、自分でできることを増やしながら毎日の生活を送っていくことが、ある意味「宿題」なのかもしれないと、私は考えています。

 ただ、夏休みなどの長期休暇になると、少し事情が変わります。一般的な学校と同様、特別支援学校でも夏休み向けの宿題が出されます。

どんな宿題が出される?

 特別支援学校で出される夏休みの宿題は毎年2つほどあり、新学期の初日に学校に提出します。これは、他の多くの学校と同じですよね。

 出される宿題の一つは、息子の夏休みの毎日の様子をつづった簡単な一言日記のようなもので、その日の体調や出来事のほか、夏休みの目標に向けた努力などを記します。

 もう1点は夏休みの思い出を一つ選び、大きめの画用紙に写真や絵とともに文章で書く、いわゆる「絵日記」ですね。完成した絵日記は、休み明けに教室などで掲示されるそうです。

 書き取りや計算ドリルといった宿題はありませんが、一般的な学校でもこのような夏休みの宿題は、出されることがあるのではないでしょうか。

宿題に意味はある?

 私の息子もそうですが、特別支援学校に通うお子さんの中には、字の読み書きができないお子さんが数多くいます。私の息子も、字の読み書きどころか言葉を話すこともできません。

 言語コミュニケーションでの意思疎通が難しいので、夏休みの毎日の簡単な日記も、夏休みの思い出の絵日記も、息子が自分でやるというのは現実的ではありません。

 そのため、夏休みの宿題は、毎年息子の名前で出すけれど、すべて親である私が書く、「親の宿題」に近いところがあるなと感じています。他の特別支援学校の事情を見聞きしてみても、「夏休みの宿題が親の宿題になりがち」というのは、よくあることのようです。

 せめて、夏休みの思い出の絵日記は、息子と一緒に取り組むことができたらいいなと思うのですが、「どんな思い出を書こうか」と息子に相談することもできません。

 息子は宿題の意図を理解することが難しく、その上、1人で鉛筆を持って「書く」行為もできないので、一緒に宿題に取り組む難しさを感じています。

 私としては、本人がそのように思っているかどうかも分からない、私が考えた文章を無理やり息子の手を持って書かせるのに抵抗があり、結局、私がすべて書いています。

 息子の名前で提出しながら、明らかに親の私が書いている宿題に意味はあるのか。

 先生も親が書いたと思って読んでいると思うけれど、一応息子が書いている体で、ひらがなで息子目線で書いた方がいいのか。いっそのこと漢字を使って、親が書いている体で書いた方がいいのか。

 そんなことを思いながら毎年息子の夏休みの宿題をこなしていると、「自分は大人になってもいまだに夏休みの宿題に追われているのか」と、ふいにむなしくなることがあります。

日記を読み返すと思い出がよみがえる

 いろいろと思うことがある息子の夏休みの宿題ですが、よかったなと思うこともあります。毎日の一言日記も、思い出の絵日記も、あとで振り返って読み直してみると、息子と家族の成長をたどる記録になるからです。

「この時期はこういうことを目標に挑戦していたんだな」「この年はこんなお出掛けをして楽しかったな」と、忙しくてあっという間に過ぎてしまった夏休みを振り返ることができます。もはや息子の宿題というよりは、私の子育て日記と言った方が近いかもしれません。

 それでも、こうやって文字にして記録に残していくことで、慌ただしい毎日を振り返ることができるのは、大切なことなのかなとも思います。

 とはいえ、息子の学校が休みだと、親はなかなか休めず、いつも以上に忙しい毎日。正直、大人になった今でも宿題をためているなんて恥ずかしいですが、私は毎日コツコツ続けることがなかなかできていません。

 日記が数日分たまってしまって、慌てて放課後等デイサービスの連絡帳やスケジュール帳を見返して、思い出しながら書いたりしています。放課後等デイサービスは、障害がある学齢期の子どもが放課後や学校の休日を過ごす、療育機能と居場所機能を備えた福祉サービスで、息子は長期休暇中、普段以上に多くの時間を過ごします。

 今年の夏休みも、息子の宿題が出ていますが、大変だったことも楽しかったことも盛り込んだ記録として残せるように、頑張ろうと思います。

 夏休みの宿題に追われているお子さんも親御さんも、すべての提出物を完成させられるよう、夏休み最後の日まで、一緒に走り切りましょう。

(ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ)

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べっこうあめアマミ(べっこうあめあまみ)

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

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