オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

“海デビュー”で泣き叫び…自閉症児にプールは無理? 母が気付いた息子の“可能性”

知的障害を伴う自閉症の息子を育てている母親が、息子を初めて海に連れて行ったときのエピソードについて、紹介します。

初めて海に行ったときに泣き叫んだ息子(べっこうあめアマミさん作)
初めて海に行ったときに泣き叫んだ息子(べっこうあめアマミさん作)

 ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある8歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の4歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 今日は「海の日」ですが、家族や友人と海に遊びに行く人は多いのではないでしょうか。今回は、アマミさんが、海にまつわる息子との忘れられない思い出のほか、その後に得た気付きについて紹介します。

海に拒否反応を示した息子

 私が生まれ育った場所は比較的、海に出やすい地域で、幼い頃から夏になると家族で海水浴に行っていました。特に、私の父はアウトドア派で海や山などの自然が大好きです。父にとっての初孫である息子が生まれると、一緒に海に行くことを楽しみにしていたのではないかと思います。

 息子が2~3歳の頃のときでした。地元に帰省した際に、私の両親と夫、息子と一緒に海に行きました。息子にとっては初めての海だったため、念のため、人が多過ぎない穴場の場所や時間を狙って、少しの時間だけ過ごすつもりで出かけました。

 私たちは、広い砂浜と波立つ海や潮風に息子がどんな反応を示すのか、ドキドキしながら息子の“海デビュー”に立ち会ったのです。

 結論から言いますと、息子は初めての砂浜で、まるでこの世の終わりかのように泣きわめきました。車から下りて、父や夫が息子を抱っこしながら少しずつ砂浜を進んでいったのですが、海までかなりの距離がある時点で、息子は激しく暴れ出したのです。

 初めて見る広大な海、たくさんの水が波となって押し寄せている光景に、まだかなり遠い距離ではあったものの、驚いたのかもしれません。

 しかし、息子は父と夫に抱っこされていたので、砂浜に下りることすらしていません。公園での砂遊びは好きでしたが、砂浜がそこまで怖いと思うのは不思議でした。しかも、まだ水にぬれるどころか、波音が聞こえ、潮の香りがするくらいの距離感です。

「せっかく来たのだから」と、足だけでも波打ち際で水に触れられたらと思ったのですが、息子の様子を見て「こりゃ無理だ」と判断し、全員で足早にその場を去りました。

 このときの息子の海へのあまりの恐怖の表情に、恐らく家族全員が、「この子は海やプールが苦手なんだろうな」と感じたと思います。

療育のプールで水に慣れた息子

「息子は海やプールが嫌い」

 この認識は、息子の初めての海体験から、家族の間に共通認識として芽生えていました。そのため、その後は、本人が喜ばない水遊びをわざわざ企画することはなく、息子を海やプールなどに連れていくこともありませんでした。

 しかしその後、息子が通うようになった療育(障害のある子の発達を支援する施設)が、夏に「プールの時間」を存分に設けてくれる施設だったのです。施設内には大小2つのプールがあり、夏は毎日、プールの時間を設けていました。

 自閉症があるお子さんの中には、水に入るのが大好きなお子さんも多いと聞きます。そういうお子さんにとっては、願ってもないうれしい環境でしょう。

 私は当初、不安しかありませんでした。海での出来事を考えると、プールに入って楽しそうにする息子の姿を想像できなかったからです。

 実際、療育のプールの時間のときに、息子は当初、なかなかプールに入ろうとはしなかったそうです。それでも、先生がたらいを用意してくださり、まずは足首程度まで水を張ったたらいに入ることからスタートして、少しずつ「水に入る」ことに慣れていくことができました。

 すると、その夏の終わりには、息子は療育施設の大きい方のプールにも入ることができるようになったのです。

「苦手」ではなくて「不慣れ」なだけかも

「息子が水を克服した!」と思った私たちは、その後、大きなプールが併設されたレジャー施設に遊びに行きました。

 すると、息子は療育施設のプールよりも大きくて水深も深かったにもかかわらず、浮き輪に乗ってぷかぷか浮いて遊ぶことができたのです。そのときの息子には、うれしそうな笑顔が見られました。

 もしかしたら、今でも息子は「海」となると、何らかの理由で恐怖を感じて近寄ることができないかもしれません。しかし、プールでこんなに気持ちよさそうに笑う息子を見ることができるとは、初めて海に行ったあの日には想像もできませんでした。

 息子を育てていると、夏の海やプール、冬の雪遊びなど、季節ならではの遊びにあまり喜んでもらえない、もしくは強い拒否感を示されることがよくあります。

 しかし、最初から「この子はこういうものは苦手なんだ」と思い込んで避けるのではなく、「不慣れなだけかもしれない」という発想は持ち続けたいと思っています。

 苦手なことを無理強いする必要はありませんが、もしかしたら、少しずつ慣れていったら楽しめるときが来るかもしれません。

 特に、息子のように自閉症がある子の場合は、何ごともスモールステップで少しずつ慣らしていくことが大切です。これからも、本人の無理がないように、少しずついろいろな経験をさせていきたいと思います。

(ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ)

1 2

べっこうあめアマミ(べっこうあめあまみ)

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

コメント