オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

100年のフィナーレへ 「カムカムエヴリバディ」最後の“バトン”は誰の手に?

3人のヒロインが100年の物語をつなぐ、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」。最終回まで残り1カ月を切り、いったいどんなフィナーレを迎えるのでしょうか。

上白石萌音さん(2020年11月、時事)、深津絵里さん(2015年5月、EPA=時事)、川栄李奈さん
上白石萌音さん(2020年11月、時事)、深津絵里さん(2015年5月、EPA=時事)、川栄李奈さん

 連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(NHK総合)が、最終回まで残り1カ月を切りました。現在は、朝ドラ史上初、3人のヒロインによる100年の物語のフィナーレを飾る“ひなた編”が進行中。地道な努力が苦手で挫折を繰り返してきたひなた(川栄李奈さん)が、さまざまな人と出会い、一歩一歩成長していく姿が描かれています。

 高度経済成長期の真っただ中に生まれたひなたは、とにかく天真らんまんな女の子。自由にのびのびと育った彼女を見ているとほほ笑ましくて、思わず目を細めてしまいます。

 そして、同時に脳裏をかすめるのが、ひなたの祖母にあたる安子(上白石萌音さん)のこと。安子編では、夫の稔(松村北斗さん)をはじめ、大切な人たちが続々と戦死。それでも娘のるい(のちに深津絵里さんが演じる)を抱えて戦後の混乱期を駆け抜けた安子ですが、すれ違いから親子が決別してしまうという、あまりにつらいラストで幕を閉じました。

鍵を握るのは算太?

 るい自身も、大好きな母親との別れで心に深い傷を負いましたが、錠一郎(オダギリジョーさん)に出会ったことでそのトラウマを乗り越えます。しかし、るいと安子のわだかまりは解けぬまま。2人の和解を、まだかまだかと待ち望んでいる視聴者も多いのではないでしょうか。

 そんな中、ひなた編で安子の兄・算太(濱田岳さん)が謎の振付師・サンタ黒須として登場。ついに安子編の回収がなされるかとSNS上がにぎわいました。

 何より、安子とるいがすれ違うきっかけを作ったのが、この算太。実家の和菓子店「たちばな」の資金を持ち逃げした算太を探しに行った安子が、進駐軍のロバート(村雨辰剛さん)に抱きしめられているところを目撃してしまったことで、るいは自分が捨てられたと思ったのです。

 だからこそ、算太が贖罪(しょくざい)として2人の仲を取り持つのではと期待する声も上がっていましたが、第84話で大人になった、るいを見て再び逃亡。多くの人が落胆する結果となりました。

 そんな算太ですが、一つだけ大きな功業を成し遂げています。それは、ひなたが憧れる時代劇俳優の“モモケン”こと、2代目桃山剣之介(尾上菊之助さん)の心を救ったことです。

 銀幕のスターだった初代モモケン(尾上菊之助さん/2役)と、「これからはテレビの時代」と考えていた2代目の確執が描かれた第18週。映画会社は2人を共演させて仲直りさせようとしますが、初代はこれを拒否して、息子が演じるはずだった敵役に大部屋俳優の虚無蔵(松重豊さん)を抜てきします。

 一方、2代目は父親に拒絶されたと深く落ち込むのですが、実は初代の心には息子に敵役ではなく、いつか役者として成長し、自分が演じた役をやってほしいという思いがあったのです。そんな親心に気付かせたのが、算太でした。

 彼自身も父・金太(甲本雅裕さん)とすれ違ったまま生き別れてしまったこともあり、初代の気持ちを誤解している2代目を放って置けなかったのでしょう。モモケン親子の関係は金太と算太、そして安子とるいの関係にも重なります。

“バトンの受け渡し”の物語

 ここから分かるのは、「カムカムエヴリバディ」は“バトンの受け渡し”の物語であるということ。ひなた編に「バトンを渡して、わたしは生きる」とキャッチコピーがついているように、私たちはみんな前の世代からバトンを受け取り、次の世代にバトンを渡しています。

 そのことがさらに強調されたのが、第19週です。るいと錠一郎がそれぞれ、ルイ・アームストロング「On the Sunny Side of the Street」の歌詞「Life can be so sweet, On the sunny side of the street(ひなたの道を歩めば、きっと人生は輝くよ)」を用いて、人生の岐路に立ったるいと文四郎(本郷奏多さん)の背中を押すのですが、この曲は元々、安子の時代から歌い継がれてきたもの。

「どこの国とも自由に行き来できる。どこの国の音楽でも自由に聴ける。僕らの子どもにゃあ、そんな世界を生きてほしい。ひなたの道を歩いてほしい」

 戦争に命を奪われた稔の願いは娘のるいだけでなく、これからの時代を生きる全ての人に向けられていました。子どもたちの歩いていく道が、どうか光にあふれていますように…金太も稔も安子もるいも錠一郎も、みんなそう願いながらバトンを渡したのです。

 でも、その思いがうまく伝わらないこともある。例として、2代目モモケンは初代が渡したバトンを落としかけましたが、算太がそれに気付いてバトンをしっかり握らせてくれました。きっと、本作の最後は安子とるいの“バトンの受け渡し”が描かれるのでしょう。

「最終的には、きっと誰もが満足していただけるような結末にたどり着くと思います」

 制作統括の堀之内礼二郎さんがそう語る「カムカムエヴリバディ」のゴールに期待が高まります。

(ライター 苫とり子)

苫とり子(とま・とりこ)

エンタメ系ライター

1995年、岡山県生まれ。東京在住。学生時代に演劇や歌のレッスンを受け、小劇場の舞台に出演。IT企業でOLを務めた後、フリーライターに転身。現在は「Real Sound」「AM(アム)」「Recgame」「アーバンライフメトロ」などに、エンタメ系コラムやインタビュー記事、イベントレポートなどを寄稿している。

コメント