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「わたナギ」でも健在 多部未華子の“ドラマを日常に変える”マジックとその秘密

芸能界はやるべきことをやる場所

 さて、ここまでは多部さんの“ドラマを日常に変える”マジックの実例を見てきました。問題はここからです。いったいなぜ、彼女はそういう稀有な才能を持つにいたったのでしょう。

 その秘密が、4月に放送された「A-Studio」(TBS系)で垣間見られました。今後について聞かれた彼女は、困惑気味にこう答えたのです。

「夢を見ることがホントにないんですよ。なんか、ああしたいなこうしたいな、ああいう作品に出たいな、どういう役をやりたいなとか。(略)小学5年生のときに『アニー』に出たいって思ったのが、私の最後の将来の夢だったんです。そこから、もうないんです。こうしたいああしたい、が、仕事においては特にないっていう」

 もちろん、仕事は面白いし、共演も楽しいのだそう。ただ、小5からミュージカル「アニー」のオーディションを受け始め、それがきっかけで中学時代に女優デビューしたとき、彼女の気持ちは大きく変化したようです。

 これはおそらく、その瞬間、芝居をすることが夢から現実になったということでしょう。言い換えるなら、芸能界が憧れる場所ではなく、そこにいてやるべきことをやるという場所になったわけです。

 一方、ほとんどの役者はデビューしてからも夢を追い続けます。役を演じるときも「現実」を超えた理想を見せようとして、彼女とは対照的に“ドラマをよりドラマ的にする”ことを目指すのです。そこには自分をよく見せたいという心理も働きがちで、ともすれば、台本が描こうとする世界とズレが生じたりもします。

 しかし、デビューによって「最後の将来の夢」をかなえた彼女は自分主体の理想より、台本の中にある「現実」を優先します。我欲を捨て、というか、我欲などそもそもなく、そこに描かれた人物になりきろうとするわけです。それが等身大かつ自然体な芝居につながり、共感を生むのでしょう。

 彼女には学生だった頃から、仕事を淡々ときっちりこなすプロっぽい雰囲気がありました。それが社会人となり、役でもOLモノなどをやるようになって、ますますハマるようになってきた印象です。また、昨年には結婚もしたので、これからは主婦役も現実感をもって演じることができそうです。

 ドラマを日常に変える“多部ちゃんマジック”。彼女はこれからも「わたナギ」のような作品をどんどん世に送り出してくれることでしょう。

(作家・芸能評論家 宝泉薫)

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宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

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