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渡辺いっけい、片意地を張っていた若い頃 「さらけ出した先に何かある」境地へ

映画「いつくしみふかき」主演の渡辺いっけいさんに、台本の感想や演じた役柄の人間性、役者論などについて聞きました。

渡辺いっけいさん
渡辺いっけいさん

 映画「いつくしみふかき」で主演を務める俳優の渡辺いっけいさん。同作は、ひきこもりの青年・進一(遠山雄さん)の父・広志(渡辺さん)は妻の加代子(平栗あつみさん)が出産中、加代子の実家に盗みに入ったところを見つかり、村を追い出されます。数年後、村で連続空き巣事件が起こり、村の人々から“悪魔の子”である進一が犯人だと決め付けられて…遠山雄さんの知人の実話を基にしたヒューマンドラマです。

 オトナンサー編集部では、渡辺さんに単独インタビューを実施。台本の感想や、演じた役柄の人間性、役者論などについて聞きました。

飯田の街を歩いて身に染みた何か

Q.台本を読まれていかがでしたか。

渡辺さん(以下敬称略)「僕が演じる広志という男の行動が理解できませんでした。でも、出来上がった台本なので、分からないって言ってもいけないなと思って、セリフを頭に入れて現場に行きました。

現場で撮影のとき、1シーン1シーン分からないところを大山晃一郎監督に聞いて、納得して演じました。テレビの仕事の台本は分かりやすく、ほとんどのシーンは計算して演じています。でも、この映画に関しては計算した演技がありません。その場、その場の正解を探しながら演じました。完成した映画を見てとても新鮮でした」

Q.広志はどんな人間だと思いましたか。

渡辺「業の深い人間ですね。自分の思うがままに生きた人間です。終盤は大山監督もこだわっていて、みっともなく撮りたいとおっしゃっていました。非常に人間くさい男だと思いました」

Q.今回、役作りにされたことはありますか。
渡辺「飯田市で10日間撮影しました。飯田の方言で話していて、待ち時間を含めて、街をフラフラして体の中に染みる何かがあったと思います。それを大事にしました。肩に力を入れず役を楽しんで、バイオレンス要素のあるシーンも含め楽しめました」

Q.バイオレンスシーンの撮影は大変でしたか。

渡辺「殴られるシーンはリアクションをするだけなので、大変でもないです。女の子を車にたたきつけるシーンがあり、非常にうまく撮れていますが、それは女優さんの体のスキルがしっかりしているからで、彼女が腹筋を使って、たたきつけられているように動いて見せています。僕はそれに合わせて手を動かしていました」

Q.この映画の魅力だと感じたところを教えてください。

渡辺「途中から、この映画の展開が読めなくなりました。それが迷走しているのではなく、確実にいざなわれているけどどうなるか分からない感じが好きでした。闇鍋の面白さと似ています。観客にどうなるか分からないまま誘導する映画、成功していると思います」

Q.遠山雄さんと、関係性作りでされたことはありますか。

渡辺「演技についてはほとんど話していないです。監督の指示が全てで、遠山君とこうしようとか相談したことはないです。彼とは以前、連ドラで共演していて、段取りを決めないと演じられないタイプではないと分かっていたので必要以上に決め込まず、台本通りに進めていきました。

いい役者さんは、あまり決めすぎない人が多いです。決めなきゃいけないところはあるんですが、段取りで決めるのは嫌いで、現場で生まれるものを大事にしたいです。監督がしっかりしていたら決め込む必要もありません」

Q.現場の雰囲気はいかがでしたか。

渡辺「忘れられない充実感でした。自主映画は1週間で撮らなきゃいけないことが多いのですが、予算を切り詰めて3週間かけて撮影しました。どうしたかというと、飯田市の人たちと仲良くなって、例えば、弁当はボランティアの方々が食材を持ち寄ってくれて、安く作ってくれました。切り詰めて経費を削減した結果、撮影日数を増やすことができました。彼らのたくましさが映画を支えてくれました」

Q.渡辺さんの“役者論”を教えてください。

渡辺「カッコつけず演じることでしょうか。若いときは、もっと自分に何かあると片意地張っているところがあったり、大きく見せようというところがありましたが、今は等身大でできないことはできないと、さらけ出すのが大事だと思って演じています。それは向上心がなくなったということではなく、さらけ出した先に何かあると思っているからです」

 映画「いつくしみふかき」は6月19日からテアトル新宿ほか全国順次公開。

(オトナンサー編集部)

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