背中にノート、雨水をバケツで…「学童保育」の環境は臨時休校でさらに悪化する
多くの学校が臨時休校となり、子どもを朝から学童保育に通わせる保護者もいますが、学童保育は以前から職員や備品が不足し、施設内の環境は厳しい状態。さらなる環境悪化が懸念されます。
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、安倍晋三首相は全国の小中高校などに対し、春休みまで休校するよう2月27日に要請しました。その後、全国の9割以上の学校で一斉休校となりましたが、それにより、学童保育が抱える諸問題の深刻さが明らかとなりました。
そもそも、学童保育は放課後に開所するのが一般的ですが、厚生労働省は一斉休校に備え、学童保育を1日8時間開所させるなどの柔軟な対応をするよう、全国の自治体に要請しました。そのため、学童保育の中には一斉休校後、朝から開所している施設もあります。
ただ、学童保育は普段から多くの子どもがいて、満員状態の施設がほとんどです。しかも、どこもかしこも部屋が狭く、子どもたちがすし詰め状態です。今回の休校措置で、施設内の環境はさらに悪化します。
低賃金のため人手不足が深刻化
筆者は、学童保育で次のような光景を見たことがあります。子どもたちがテーブルに向かって宿題をしていたのですが、お互いの間隔が非常に狭く、肘がぶつかり合う状態でした。
それで、ある中学年の子は年下の子を膝上に乗せていました。年下の子はノートをテーブルの上に置けるのですが、上の子はそれができないので、年下の子の背中にノートを置いた状態で書いていました。雨が降って外に出られないときは特に悲惨で、もはや息苦しさを感じるほどです。
その超過密状態の空間で、勉強する子、遊ぶ子、眠る子、叫びまくる子、けんかをする子、泣く子が混在しながら、放課後の長い時間が過ぎていきます。まさにカオスです。
学童保育は、備品や用具も非常に貧弱なところが多いです。筆者は、壊れた一輪車を針金やタオルで固定、補強しながら使っている施設を見たことがあります。全部で10台ほどありましたが、3分の1はそのような状態でした。
雨漏りの修繕費がなくて、部屋の中に置いたバケツを数個置いて、それで雨水を受けている施設を見たこともあります。また、その施設は子ども用のロッカーも足りておらず、職員が段ボールで手作りしたものを使っていました。絵本などの児童図書も少ない上にボロボロの状態の物も多く、ガムテープなどで補強してあったりします。
学童保育はどこもかしこも職員の数が足りず、圧倒的に人手不足です。人手不足が常態化しており、多種多様な子どもたちのニーズにきめ細かく応えるのは不可能です。施設内でいじめがあっても見つけるのは難しいと思います。
また、施設の職員は激務にもかかわらず給料は安いです。これでは人は集まりません。学童保育の設置者が職員の募集をかけても応募者ゼロということがよくあるそうです。
感染リスクはかえって高まる?
先進国である日本の子どもたちは、このような環境下で放課後を過ごしています。そのことを日本中の人たちに知ってもらいたいと思います。今回、政府の要請により全国の自治体で一斉休校の措置が取られた結果、子どもたちは劣悪な環境に押し込まれることになりました。これにより、ウイルスへの感染リスクがかえって高まると指摘する専門家もたくさんいます。
日本の政治が今まで、学童保育にろくな予算もつけず、施設も貧弱、職員の給料も安いまま放置したツケが、新型コロナウイルスの感染拡大により一気に表面化したのです。
さらに言わせていただければ、日本の政治は学校や学童保育に冷たいだけではなく、教師、保育士、看護師、介護士など、人と直接的に関わる職種に対してことごとく冷たく、これらの職種はどこもギリギリの人数でやっています。
そうしたツケも、今回の新型コロナウイルスの問題によって表面化しました。これを機会にぜひ、これらの方面にもっともっと多くの予算をつけてほしいと思います。もっと人に優しい政治に、かじを切ってもらいたいと思います。
(教育評論家 親野智可等)
自宅でなんとかできる人には、子どものことも考えることができる。でも、学童保育に行くしかない人たちにはそんな余裕はない。だから充実した放課後子どもプランでなければならない。しかし、現実は子どもたちに良い環境で学ばせることや専門的な人材を支援員として雇うこともできない。未来を担う子どもたちのためにかかわる、費用対効果が見えにくいが、人に優しい税金の使い道を考えて欲しいと思う。