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「テセウスの船」 あえて“バッドエンド”で引きつける決断の勝利か

同じバッドエンド「あな番」との違い

 第1話から第6話まで、「不穏なムードで進みながらも終盤に必ず感動のシーンがあり、終わりと思いきや、最後に衝撃的なシーンを見せる」という似たパターンを繰り返していたのです。

 これを視聴者目線で見ると、「毎話終盤には、前週から続く不穏なムードを吹き飛ばすほどの感動的なシーンが必ずあって、でもその直後にまた突き落とされてしまう」という感情を揺さぶられる展開。単なるバッドエンドではなく、しっかり感動させてから後味の悪さを感じさせることで大きな落差が生まれ、視聴者の感情を揺り動かしているのです。

 バッドエンドで思い出されるのが昨年、世間を大いに騒がせた「あなたの番です」(日本テレビ系)。こちらのバッドエンドは「惨殺シーンを繰り返す」という形で、さほど視聴者の感情を揺り動かすことはなく、事実、前半は人気・視聴率ともに低迷していました。その点、序盤から“感動とバッドエンド”のセットで視聴者をガッチリつかんでいる「テセウスの船」は、犯人当ての考察合戦にとどまらない魅力を視聴者に与えていたのです。

 もともと、バッドエンドは「次の放送を見てもらう」ための常とう手段。かつては「主人公や仲間が『死んだ?』と思わせるシーンで終了」「新たな悪事が明かされて終わる」というドラマが多かったものの、最近ではめったに見られないだけにおのずと目立ちます。

 そもそも、「テセウスの船」は一話完結の定型的な刑事・医療ドラマが大半を占める中、長編ミステリーに挑んだ意欲作。さらに、探偵などを集めた「考察大会」というイベントを仕掛け、その中で原作者の「漫画とは犯人が異なるらしい」というコメントを明かし、メディアに報じさせるなどPRの面でも他作の数歩前を歩いています。

 今後も、感動とバッドエンドのセットで視聴者を引きつけるでしょうが、だからこそ、最終話のラストシーンが大団円で終わったとき、どこまでツイート数が伸びるのか。幸せな佐野家の姿を日本中の人が待っているだけに、今からその瞬間が楽しみです。

(コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志)

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木村隆志(きむら・たかし)

コラムニスト、テレビ解説者

雑誌やウェブに月間20本強のコラムを提供するほか、「週刊フジテレビ批評」などに出演し、各局のスタッフに情報提供も行っている。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもあり、新番組と連ドラはすべて視聴するなど1日のテレビ視聴は20時間超(同時含む)。著書に「トップ・インタビュアーの『聴き技』84」「話しかけなくていい!会話術」など。

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