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「テセウスの船」 あえて“バッドエンド”で引きつける決断の勝利か

冬ドラマ最大のヒット作と目される「テセウスの船」。後味の悪いバッドエンドが特徴の同作が、右肩上がりの支持を集めているのはなぜでしょうか。

「テセウスの船」主演の竹内涼真さん
「テセウスの船」主演の竹内涼真さん

 もはや、冬ドラマ最大のヒット作が「テセウスの船」(TBS系)であることに異論をはさむ人はいないでしょう。

 第1話から、11.1%、11.2%、11.0%、11.0%、11.8%、13.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と右肩上がりの視聴率以上にすごいのはネット上の反響。放送中から放送後数時間にかけて、絶賛や共感、疑問と指摘、犯人考察など、さまざまな声が飛び交っています。

 ヒット作には複数の理由があるものですが、「テセウスの船」で特筆すべきは各話のラストシーン。近年の連ドラは視聴者からの批判を恐れて、機嫌を取るようなハッピーエンドが大半になっていますが、同作は「状況が悪化して終わる」という後味の悪いバッドエンドを繰り返しているのです。

 なぜ、「テセウスの船」はバッドエンドであるにもかかわらず、視聴者から批判されたり敬遠されたりすることなく、右肩上がりの支持を集めているのでしょうか。

終盤の展開とラストシーンの共通点

 まず、各話の終盤とラストシーンを挙げてみましょう。

 第1話では、崖から落ちた佐野文吾(鈴木亮平さん)を田村心(竹内涼真さん)が救い、険悪なムードだった父と子に信頼関係が生まれた感動のシーンで終わると思いきや……犯人が「次のモルモットを決めた。いよいよ『本番』に向けてカウントダウンだ。ワクワクする」とタイプを打つ不気味なラストシーンで終了。

 第2話では、心と文吾たち家族は行方不明の三島明音(あんなさん)を捜しながら絆を深め、5人で手をつないで帰るという感動のシーンで終わると思いきや……明音は見つかったものの、犯人と思われる長谷川翼(竜星涼さん)が死んでいた。

 第3話では、心が文吾に真実を話したことで険悪な関係になってしまったものの、協力して犯人を捜すことを誓い合い和解。感動のシーンで終わると思いきや……犯人を追っていた刑事の金丸茂雄(ユースケ・サンタマリアさん)が殺され、さらに心は再びタイムスリップして現代に戻ったものの、「一家心中で母と兄が死んでいた」という最悪の結果に変わっていた。

 第4話では、心は「音臼小事件被害者の集い」に行ったものの、姉・鈴(貫地谷しほりさん)の幸せを思い、踏み込めない。そんな心に代わって、岸田由紀(上野樹里さん)が壇上に立つ感動のシーンで終わると思いきや……鈴を盗撮している木村さつき(麻生祐未さん)が呼び出しのメールを送り、その机にはシアン化カリウムが置かれていた。

 第5話では、過去を変えたことで生きていた佐々木紀子(芦名星さん)がようやく当時の証言をし始めたとき、心の横で聞いていた鈴が倒れてしまう。程なく、紀子が死んだことが分かり、「もうダメだ」と絶望する心を由紀が励まして抱き合う感動のシーンで終わると思いきや……鈴はさつきから脅迫されて自ら薬を飲んだことが明かされ終了した。

 第6話では、心は由紀に結婚指輪を見せて夫婦だったことを伝える感動のシーンで終わると思いきや……心は慰霊碑に現れた木村みきお(安藤政信さん)に刺されてしまう。さらに、再び過去にタイムスリップした心は病室で目覚めるものの、みきおの悪事を録音したレコーダーは子ども時代の加藤みきおに奪われていた。

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木村隆志(きむら・たかし)

コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者

雑誌やウェブに月間30本前後のコラムを寄稿するほか、「週刊フジテレビ批評」などに出演し、各局のスタッフに情報提供も行っている。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアー、人間関係のコンサルタントとしても活動中。著書に「トップ・インタビュアーの『聴き技』84」「話しかけなくていい!会話術」など。

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