いじめ解決へ「学校介さず弁護士に相談」導入も…従来型「スクールロイヤー」制度は機能不全?
いじめなどの解決に、学校を介して弁護士が対応する「スクールロイヤー」制度が始まっていますが、学校を介さず弁護士へ相談可能にしようとする自治体もあります。いじめの解決に従来型の制度は機能していないのでしょうか。

いじめなど学校の諸問題に弁護士が対応する「スクールロイヤー」制度が、2020年度から始まりました。文部科学省と教育委員会、弁護士会が連携し、弁護士が学校に派遣され諸問題に対して助言を行うものです。学校を介して弁護士に対応してもらうのが一般的ですが、同じ「スクールロイヤー」制度でも、学校を介さずに、保護者や児童生徒が直接弁護士に相談できるようにしようとする自治体もあります。いじめ問題の解決に、従来型の「スクールロイヤー」制度は機能していないのでしょうか。
神奈川県いじめ防止対策調査会の委員でもある、 佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
背景に学校や教委への信頼不足
Q.「スクールロイヤー」は、どのようなことをする弁護士ですか。
佐藤さん「『スクールロイヤー』は、学校や教育委員会に対して、学校で発生するさまざまな問題についてアドバイスする弁護士のことです。
いじめや虐待、学校内での事故、保護者からの過剰な要求など、学校内で法的な問題が生じることは少なくありません。こうした問題について、子どもの最善の利益を考慮し、迅速に法的なアドバイスをしたり、教師に対して研修を行ったりすることで、トラブルの予防や早期解決につなげる役割が期待されています」
Q.「スクールロイヤー」制度は、どのような背景から誕生したのですか。この制度は、全国でどれくらい普及しているのでしょうか。
佐藤さん「2019年3月に文部科学省が行った調査で、2010年ごろと比べ、学校内での問題で法務相談が必要な機会が増えたと考える自治体が多かったこと、教育分野を専門に扱う法務相談体制がなく、相談のタイミングが遅れてしまうという課題があることが分かりました。そこで2020年度より、国が都道府県と政令指定都市の教育委員会に、弁護士への相談経費に充てられる地方交付税を交付することになりました。
『スクールロイヤー』制度は、まさに今、普及、拡大しているところだと思います。そのため、すでに制度が整備されている自治体もあれば、まだの自治体もあり、全国的に普及するにはもう少し時間が必要でしょう。私のいる神奈川県内でも、2020年9月に藤沢市がスクールロイヤーの設置を始め、川崎市など他の自治体でも弁護士が学校に関わる仕組みを導入し始めています。
一口に『スクールロイヤー』と言っても、定義が明確に定められているわけではなく、実態も多様です。例えば、相談ルートにしても、教師が弁護士に対して直接相談できる制度や、教育委員会に一度相談し、そこから弁護士に相談する制度などさまざまですし、弁護士の働き方にしても、教育委員会の職員になるケースや、教育委員会から委託を受けるケースなどがあります」
Q.学校を介さずに、保護者や児童生徒が直接弁護士に相談できるようにしようとする自治体もありますが、なぜ、学校を介さずに弁護士に相談できるようにすると思われますか。
佐藤さん「学校に相談できればよいのですが、中には『学校に相談したけれどきちんと動いてくれない』『教師に問題があって学校に相談しにくい』などと感じている保護者や児童生徒もいます。
このように、学校や教育委員会との信頼関係が築けていないようなケースでは、学校外の相談先があることが、子どもを守ることになります。そこで、学校を介さず、直接弁護士に相談できる制度を導入しようとする自治体が出てきているのだと思います」
Q.いじめ問題の解決に、従来型の「スクールロイヤー」制度は機能していないのでしょうか。
佐藤さん「いじめ問題の解決や予防に、一定の役割を果たしていると思います。スクールロイヤーは、いじめ発生時に、事実関係の調査や、調査結果の評価、加害児童生徒への指導、被害児童生徒への支援などについて、具体的なアドバイスを行います。事実をはっきりさせ評価することは、法律家が得意とするところですから、早期に適切なアドバイスがなされることが期待されます。
また、スクールロイヤーは、子ども向けのいじめ予防授業を行ったり、教師向けの研修を行ったりもします。こうした活動によって、いじめを防いだり、早期発見・解決につなげたりという効果が見込まれます」
Q.弁護士業界では、「スクールロイヤー」という業務が、どのように見られているのでしょうか。
佐藤さん「スクールロイヤーは、比較的新しい制度なので、弁護士にとっても、発展の余地のある分野として、一定の関心が寄せられているように思います。
スクールロイヤーとしての業務をこなすためには、学校分野に関わる法律や裁判例などの知識が必要になりますし、教育的な知識、福祉的な知識なども、ある程度身に付けておく必要があります。法律以外のことについても学ぶ意欲があり、『子どもの最善の利益』を念頭に置きながら、教育現場のサポートをしたいという熱意ある弁護士に、特に注目されているのではないでしょうか」
Q.学校内や児童生徒間の問題であれば、まずは教師が解決に動いた方がよいと思うのですが、いかがでしょうか。あるいは、多忙な教師の現状を考えると、最初から積極的に弁護士が関わる方がよいのでしょうか。
佐藤さん「学校内や児童生徒間の問題については、現場をよく知る教師が解決に動くことが非常に大切です。ただし、問題が起こる前や、起こってすぐの段階で、法的な視点から、どのように動けばよいのかアドバイスを受けることにより、トラブルを未然に防いだり、問題が大きくなる前に解決したりすることが可能になります。
そうすれば、多忙な教師の負担を軽減することもできますし、子どもにとっても最善の利益が守られることになるでしょう。そういう意味で、『スクールロイヤー』制度の導入には意味があると思います」
(オトナンサー編集部)
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