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話題沸騰「恋です!」 杉咲花が恋愛モノと根性モノを両立できる特別な演技力

日本テレビ系連続ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」で主演を務める杉咲花さん。これまで、「おちょやん」「花のち晴れ」などをヒットに導いた背景には、その特別な演技力が関係していると筆者は分析します。

杉咲花さん
杉咲花さん

 杉咲花さん主演の日本テレビ系連続ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(毎週水曜 後10:00)が注目を集めています。

 原作は、うおやまさんによる4コマ漫画「ヤンキー君と白杖ガール」。杉咲さんが演じるのは、弱視というハンディを持ちながら、明るくひたむきに生きる女子高生・赤座ユキコで、杉野遥亮さん扮(ふん)するピュアなヤンキー・黒川森生と恋に落ちます。基本的にはラブコメですが、弱視ゆえ、ヤンキーゆえの葛藤も真面目に描かれ、多角的に楽しめる内容です。

 特に第4話(10月27日放送)は恋愛モノと根性モノとが両立しているような内容でした。それぞれ、バイトに挑戦する2人。ユキコはハンバーガーショップで働き始めるのです。

「積み重ね」「繰り返すこと」を苦にしない

 しかし、弱視というハンディは想像以上のもの。ほとんど見えないので、厨房内の配置や調理の手順を体と頭にたたき込み、手探り、かつ、体当たりで作業しなくてはなりません。

 そして、その作業ぶりを健常者が再現するのも至難の業です。実は見えているのに見えていないように演じるという高度なことを彼女はこの回に限らず、リアルにやってのけています。

 杉咲さんはこうした芝居を実践的に身に付けていったようです。インタビューでは「自分でも実際に白杖を持って、外を歩いたりしています。体験して初めて感じることだったり、分かることがたくさんあるんです。そうしたことを得られる時間をもっと積み重ねていけたらいいなと思って」(MANTANWEB)と語っています。

 NHKの朝ドラ「おちょやん」(2020年度後期)でヒロインを演じたときも彼女は似た話をしていました。着物での芝居が多いことから、「自粛期間中は家で着物を着て過ごしていた」として、「所作は繰り返すことでなじんでいくものだと思いますので」(リアルサウンド)とその意図を明かしていたものです。

 いわば、「積み重ね」や「繰り返すこと」を苦にしない性格が、根性モノっぽい要素も面白く見せられることにつながっているのでしょう。

 なお、恋愛モノと根性モノとの両立は彼女の得意とするところでもあります。「おちょやん」にしても、貧しかった少女が困難を乗り越え、喜劇女優として大成するというメインストーリーに加え、幼なじみとの結婚、浮気をされての離婚という、恋愛モノの要素が組み込まれていました。

 また、連ドラ初主演を務めた「花のち晴れ~花男 Next Season~」(TBS系)も恋愛プラス根性の作品だったと言えます。彼女が演じたヒロインは落ちぶれた元・社長令嬢。そこに不動産王の娘やカリスマモデルといったライバルが立ちはだかり、それでもひるむことなく立ち向かって、友情も育みつつ、本命の恋を成就させていきます。

 今回の「恋です!」でも、生見愛瑠さん扮する橙野ハチ子がライバルとして登場。第5話(11月3日放送)では、白杖を取り上げようとするという意地悪をされますが、ユキコは相手と話し合いの場を持ち、熱い説得でねじ伏せて仲良くなりました。

「目も口も物を言う」演技力

 ただ、「恋です!」に関してはいつもと違うハードルもあります。目の不自由な役なので、目を使った芝居がほぼ封じられているのです。そこを彼女は、もっぱら声による芝居でカバーしています。

 もともと、声のよさには定評があり、あの椎名林檎さんも激賞しているほど。3年前の「しゃべくり007」(日本テレビ系)では、椎名さんが「今後楽曲提供したい人」として、杉咲さんを挙げたエピソードが紹介されました。

 その理由とは「曲を書く人なら、杉咲さんの声はみんな大好きで、声を聞いた瞬間に心を射抜かれてしまう」というもの。そんな魅力的な声に喜怒哀楽を自在に乗せることで、ユキコの恋心が生き生きと伝わってきます。同時に、相手が好きになるのも納得させられます。彼女はいわば、「目は口ほどに」ではなく「目も口も物を言う」演技力の持ち主なのです。

 とはいえ、恋愛プラス根性という図式は時に過剰で暑苦しさや重苦しさももたらします。杉咲さんの場合、そういうところがなく、ラブコメとして自然に受け入れられやすいのはなぜでしょう。

 一つ思い当たるのは世に知られることになった味の素「Cook Do」のCMです。10年前に「ホイコーローの女の子」として注目されて以来、彼女は食べ物関連のCMが似合うイメージがあります。

 それは彼女自身から、健康的な生命力が感じられるからでしょう。それゆえ、恋愛プラス根性という世界を演じても無理をしているように映らず、その明るくひたむきなヒロイン像も好意的に支持されるのではと思われます。

 そういえば、「恋です!」のヒロイン・ユキコがハンバーガーショップでバイトをするのも、やりたいことをやってみるようにアドバイスされ、「食べること」と「料理」が好きなことに気付いたからでした。面接では「特にポテトが最高です。大好きなお店で働けないかなと思いまして」とアピールして採用されます。まさにハマり役なのです。

 第5話のラストでは、ユキコの恋に意外なライバルが存在することが明かされました。今期の連ドラでも攻めの姿勢が光るこの作品。後半に向けて、ますます目が離せない展開です。

(作家・芸能評論家 宝泉薫)

宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

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