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地方は困惑も…「コロナ疎開」でどんな問題が起こり得るのか 現地の声も紹介

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、大都市圏から地方へ“脱出”する人々の動きが問題となっています。「コロナ疎開」の問題点とは。

7都府県に緊急事態宣言が出た4月7日、東京から地方への長距離バスを待つ人たち(2020年4月、時事通信フォト)
7都府県に緊急事態宣言が出た4月7日、東京から地方への長距離バスを待つ人たち(2020年4月、時事通信フォト)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相は4月16日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象区域を全国に広げました。先に対象となった7都府県から地方への移動が増え、全国的な感染者急増が懸念されるためとしています。

 しかし既に、7都府県に宣言が出た4月7日以前から、外出自粛が求められる大都市圏を離れて、別荘地や離島などへ移動、帰省する人が相次ぎ、その動きは「コロナ疎開」とも呼ばれ、地方では困惑が広がっているようです。

「コロナ疎開」の問題点について、医療ジャーナリストに解説してもらうとともに、現地の声を聞きました。

「疎開」で自分が感染する恐れも

 まず、医療ジャーナリストの森まどかさんに、コロナ疎開の問題点を聞きました。

Q.コロナ疎開のどのような点が問題なのでしょうか。「疎開先」にとっての問題点を教えてください。

森さん「感染確認数が多い地域から少ない地域へ人が移動することで、最も懸念されるのは、ウイルスの持ち込みによる感染拡大です。

新型コロナウイルスは、感染しても無症状の人が一定数存在することが分かっています。4月7日に緊急事態宣言が出された都市部では、ウイルスがまん延していると考えられていますが、無症状の人たちは気付くことができません。そうした人たちが『自分は大丈夫』と思って移動することで、知らず知らずのうちに感染を広げてしまう可能性があります。

帰省した先で感染が判明し、帰省先の家族も感染したというケースが既に発生しています。広範囲の移動によって、感染ルートが特定しにくくなることも問題です。現在、疎開先として報道されている地域は、都市部と比較すると高齢人口が多い傾向にあります。重症化リスクの高い高齢者が多い生活圏に感染が広がることは避けなければなりません。

また、指定感染症の入院患者を受け入れる病床も、重症患者・最重症患者の治療に用いる人工呼吸器や『ECMO(体外式膜型人工肺)』が整備されている医療機関も、どこにでもあるわけではなく限られています。

別荘地や離島などに都市部から大勢の人が移動することによって、もし感染が一気に拡大するようなことがあれば、その地域の医療提供体制が間に合わなくなる“医療崩壊”の恐れもあります」

Q.コロナ疎開をする人自身にとっての問題点を教えてください。

森さん「公共交通機関での移動は、駅や空港、車内、航空機内での感染のリスクがあります。人と接触することで飛沫(ひまつ)感染のリスクもある他、不特定多数の人が利用する場において、さまざまな接触感染のリスクが高まります。

全国的に新型コロナウイルス感染への警戒が強まっているので、診療所や病院で、新規患者がなかなか診てもらえないという実態も少なからずあるようです。住み慣れた地域でかかりつけ医に相談できるという環境を離れることは、健康管理の上で不安材料となります。また、気候の異なる地域への移動は体調を崩しやすくなるので注意が必要です」

Q.コロナ疎開が多発することが日本全体に与える悪影響として、どのようなことが考えられるでしょうか。

森さん「感染拡大を止めるために重要なことは、人と人との接触機会を減らすことです。そのために大切なのは、可能な限り『動かない』こと、それが『ステイホーム』の真の意味です。たとえ、疎開先でステイホームを実行するとしても、そこまでの移動で感染を広げてしまえば、感染拡大防止策としては何の意味もありません。むしろマイナスです。

先に緊急事態宣言が出された地域の外出自粛要請は、その地域に住む自分たちが感染しないようにするとともに、他の地域の人に感染させないという大きな意味を持っているのです。

都道府県境に扉があるわけではないので、コロナ疎開がなくてもウイルスは全国各地へ広がっていきます。最も回避しなければならない医療崩壊は、感染確認数の多い少ないだけでなく、増加の勢い、重症者数、感染経路不明者の割合、医療機関と医療従事者の状況等、さまざまな要因によって起こります。

広範囲に人が移動することでそのスピードが加速すれば、全国的に感染者が急増し、結果的に、先行した7都府県における緊急事態宣言が長引くことにつながりかねません」

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森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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