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ベストセラー「明治維新という過ち」が決定的に過っているワケ【後編】

薩長の志士はテロリストではない

 原田さんは、真木和泉(真木保臣)に対しても一方的な批判を展開しています。水戸学や崎門学などの国体思想を学び、確固たる討幕論を唱えるに至り、ついには禁門の変に敗れて自刃した真木は、忠義に殉じた楠木正成(大楠公)を尊崇していました。真木一族の男子は、まさに楠公一族のように、こぞって維新の大業に殉じようとし、彼らのほとんどが、真木と前後して倒れています。

 ところが、原田さんは、真木について「松蔭の跡を継いで過激派をリードしたこの男は、松蔭同様、過激派という点でかなり悪質な人物」と酷評するのです。そして「薩長などの志士は暗殺者集団、テロリストたちだった」と断じます。

 しかも原田さんは、都合のいい歴史解釈によって、長州テロリスト説を印象づけ、彼らの尊皇心に疑義を挟もうとするのです。たとえば、長州過激派が「八月十八日の政変の復讐に燃えて、御所を焼き、天皇拉致を決行しようとした」と書いています。

 しかし、果たしてこれが史実と言えるのか、極めて疑わしいところです。その唯一の根拠は、土方歳三の過酷な拷問によって無理やり自白させられた、古高俊太郎が語ったとされる発言のみであり、しかも古高は早々に処刑されているため、客観的な証拠とはなり得ません。

 つまり、原田さんの議論は、都合のいい歴史解釈によって、薩長の志士を貶めることに目的があるとしか思えません。原田さんの本は、ベストセラーになっているそうです。こうした一方的な歴史解釈が広がり、明治維新の意義が覆い隠されることに強い危機感を覚えます。

(ジャーナリスト 坪内隆彦)

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