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不妊、老後不安、介護…「熟年再婚」の落とし穴を経験した3人の男性たち

「熟年再婚」には、心の隙間を埋めるメリットがある一方、老後資金不足や親の介護などのデメリットもあります。

「熟年再婚」にはさまざまな問題が伴う?
「熟年再婚」にはさまざまな問題が伴う?

 筆者は過去15年にわたり、1万件以上の夫婦の相談を受け持ってきましたが、相談者の気持ちが最優先。筆者の意見は二の次です。正直、「やめておいた方がいいんじゃないか」と内心思うことは多々ありますが、胸の内にとどめ、口にすることは多くありません。特にそう思う典型例は「熟年再婚」。今回は55歳以上を「熟年」としますが、「なんで、この年で籍を入れるのだろう」と首をかしげるばかりです。

 人の気持ちは目に見えないので理解に苦しみます。主な相談者は男性ですが、熟年再婚のメリットはせいぜい、寂しい心を埋めてくれることくらい。一方のデメリットは、果てしなく続く不妊治療、離婚ですべて失ったせいで不足する老後資金、そして、自分だけでなく相手の親の介護…損得両方が内在するので熟年再婚の評価は難しいのが実際です。

 これらの問題を解消するため、前妻と向き合わざるを得ないケースもあります。そこで、今回は数字を用いた損得勘定を行い、熟年再婚を可視化することを試みました。

 まず、熟年再婚のメリットですが、1人目の相談者・品川航さん(67歳、会社役員、年収1200万円)は再婚生活について「今はとても幸せです。離婚したら人生終わりだと思っていましたが、そんなことはなかったですね。過去の経験があるので、純粋な愛を感じています」と言います。再婚後、経営する会社の業績は右肩上がり。役員報酬は離婚時より年300万円も増えたそうです。

「過去の結婚や離婚で本当に多くのことを学びました。離婚なんてマイナスばかりで無駄なエネルギーを使うだけだと思っていましたが、そのときの経験が仕事に役立っています。離婚の経験から、トラブルの本質を理解することができたので、仕事での危機察知能力が高まったと実感しています。以前より、自分にも他人にも随分寛容になったと思います。『一人では何もできない』と悟ることができたのは大きかったですね」

 航さんは感慨深そうに語ってくれました。

 次に熟年再婚のデメリットですが、これはいや応なしに前妻と向き合わざるを得ないことです。再婚の場合、やはり愛より金です。愛があろうと金がなければ彼女をものにできません。2人目は、不妊治療の資金で悩む鶴見健司さん(56歳、会社員、年収550万円)です。

「お恥ずかしい話ですが…すでに財布がカツカツで毎月の支払いが苦しいんです。今回の体外受精ですが当初、医療費は30万円ほどだと聞いていました。しかし、ふたを開けたら足が出ており、38万円もかかってしまいました」

 そんなふうに苦しい胸の内を吐露してくれた健司さん。7年前に前妻と離婚し、前妻が当時13歳の息子さんを引き取り、現在まで毎月8万円の養育費を支払い続けてきました。健司さんは昨年、交際していた彼女と再婚。お互いに子どもを望んでいたのですが、健司さんはすでに56歳と決して若くありません。自然な形で授かることができず、やむを得ず不妊治療に踏み切ったのです。

 しかし、体外受精の準備として薬代、注射代、入院費として約38万円が発生したそう。さらに、運よく妊娠判定が出た後も、妻はホルモン投与を続けなければならないようで、薬代が毎月2万5000円かかります。

「正直なところ、僕にとっては厳しい金額なんです」

 健司さん夫婦は治療を始めて今年で3年目。1年目は15万円、2年目は13万円、そして、3年目は病院へ変更したため、再度、一通りの検査が必要になったので18万円…すでに、84万円を負担していました。

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露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)

行政書士(露木行政書士事務所代表)

1980年12月24日生まれ。いわゆる松坂世代。国学院大学法学部卒。行政書士・ファイナンシャルプランナー(FP)。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化し行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界最大規模に成長させる。他で断られた「相談難民」を積極的に引き受けている。自己破産した相手から慰謝料を回収する、行方不明になった相手に手切れ金を支払わせるなど、数々の難題に取り組み、「不可能を可能」にしてきた。朝日新聞、日本経済新聞、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインで連載を担当。星海社の新人賞(特別賞)を受賞するなど執筆力も高く評価されている。また「情報格差の解消」に熱心で、積極的にメディアに登場。心理学、交渉術、法律に関する著書を数多く出版し「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷、いずれもメタモル出版)「婚活貧乏」(中央公論新社、1万2000部)「みんなの不倫」(宝島社、1万部)など根強い人気がある。仕事では全国を飛び回るなど多忙を極めるが、私生活では30年以上にわたり「田舎暮らし」(神奈川県大磯町)を自ら実践し「ロハス」「地産地消」「食育」の普及に努めている。公式ブログ(https://ameblo.jp/yukihiko55/)。

注)離婚手続きに関して、個別事情を踏まえた離婚手続きや離婚条件に関する法的観点からの助言が必要な場合は弁護士に依頼してください。

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