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NiziU、待望デビュー 実力だけでなく“特別な自分”を大切にする姿勢の時代性

先日、ファーストシングル「Step and a step」をリリースし、正式にデビューした9人組アイドルグループ・NiziU。これまでの軌跡と人気の理由を概観します。

SHIBUYA109に掲出されたNiziUのシリンダー広告
SHIBUYA109に掲出されたNiziUのシリンダー広告

 12月2日にファーストシングル「Step and a step」をリリースし、正式にデビューを果たした9人組アイドルグループ・NiziUが次々に快挙を達成しています。

 プレデビュー作のデジタルミニアルバム「Make you happy」の表題曲が女性アーティスト史上最速でストリーミング累計1億回再生を突破。グループ名が「新語・流行語大賞」にノミネートされ、「NHK紅白歌合戦」にデビューから史上最速で初出場が決定するなど、数々の歴史を揺るがす記録を打ち出しているNiziU。メンバーはソニーミュージックとJYPエンターテインメント(以下、JYP)による合同オーディションのプロジェクト「Nizi Project」(以下、虹プロ)で、約1万人の応募者から選び抜かれた9名で構成されています。

人間として大切なことを教える

 虹プロが始動したのは2019年2月のことです。JYPの創業者で男性アイドルグループ・2PMやガールズグループ・TWICEをスターダムに導いたプロデューサー・J.Y.Park氏が“虹”のような個性を持つアイドルグループを発掘・育成するため、同年7月から8月にかけて、日本国内8都市と米ハワイ、ロサンゼルスの10カ所で予選オーディションを実施。そこで選ばれたのはわずか26人でした。9月に行われた東京合宿でさらに14人に絞られ、辞退した1人を除く13人が12月に韓国へと渡ったのです。

 Huluでは今年1月から、「Nizi Project パート1」として予選からメンバー決定までの過程が放送されました。当初、虹プロという企画を知っている人はごくわずかでしたが、パート1の終了後から、12カ月にわたる韓国合宿の模様を映したパート2の中盤にかけて広く認知されるように。その理由はパート1がYouTubeでグローバル公開され、Huluの有料会員だけでなく、世界中の人が無料で視聴できるようになったことが一つです。

 さらに、朝の情報番組「スッキリ」(日本テレビ系)で定期的に特集が組まれ、同じく、日本テレビの深夜枠で最終メンバー決定までを追った番組「虹のかけ橋」が放送開始となったことで、普段はK-POPや配信番組に関心のない層にも虹プロの存在が知れ渡ったと考えられるでしょう。個人的な出来事ではありますが、最終メンバー決定直前のある日、ふらっと入った飲食店で、50~60代と見られる店主が常連客と“推しメン”について熱弁していました。今思えば、その様子が虹プロの人気を物語っていたように思います。

 予選から最終メンバー決定まで数多くのドラマが生まれた虹プロ。予選を通過したメンバーはJ.Y.Park氏の目にとまったというだけあって、元々のポテンシャルは高い女の子たちばかりでした。例えば、最終的にNiziUのメンバーとなったMAKO、RIMA、MIIHIは3人ともJYPの練習生で、予選の時点で、J.Y.Park氏にその実力を認められています。一方で、AYAKAやMAYUKAのように実力不足を指摘されながらも、成長する可能性があると判断されて合格したメンバーも。

 しかし、彼女たちも東京・韓国合宿を経て、どんどんと実力を伸ばしていきました。夢を追う若者たちが時に涙を見せながら、少しずつ成長していく――その姿が人生の岐路に立つ10~20代の心を捉え、親世代である大人たちも思わず応援したくなる。何より、誰がデビューできるかという“戦いの場”でありながら、少しもドロドロとした空気を感じさせず、常に己と向き合うポジティブな引力が彼女たちにはあります。チームで挑む韓国合宿のミッションでもダンスや歌を教え合ったり、悩みを打ち明けたりとライバルではなく同志として手を取り合う姿が印象的でした。

 それは仕掛け人であるJ.Y.Park氏の影響力によるところも大きいでしょう。J.Y.Park氏はプロジェクト中、一貫して、彼女たちに人間として大切なことを教えてきました。例えば、東京合宿で26人に向けて声を掛けたのは「一人一人が特別でなかったら、生まれてこなかったはずです」という言葉。もちろん、オーディションなので、選ぶ、選ばれるということからは逃れられませんが、J.Y.Park氏は実力よりも個性を大事にしていました。そのため、常に彼女たちには、それぞれが特別な存在であることを伝え、“自己肯定感”を植えつけることに成功したのです。

 また、韓国合宿で伝えられたJYPが追求する3つの価値観も一人一人の姿勢に影響しています。それはカメラがない場所でも恥じることのない立派な人間であること。毎日努力を怠らず、夢に向かって突き進むこと。周囲への感謝を忘れないこと。この“真実・誠実・謙虚”を胸に刻み、メンバーは最終ミッションに挑みました。そして、NiziUとしてデビューした9人は今もJ.Y.Park氏の言葉通りに成長し続けています。

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苫とり子(とま・とりこ)

エンタメ系ライター

1995年、岡山県生まれ。東京在住。学生時代に演劇や歌のレッスンを受け、小劇場の舞台に出演。IT企業でOLを務めた後、フリーライターに転身。現在は「Real Sound」「AM(アム)」「Recgame」「アーバンライフメトロ」などに、エンタメ系コラムやインタビュー記事、イベントレポートなどを寄稿している。

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