内田英治監督、草なぎ剛は憑依型「どんどん変化していくのが面白かったです」
映画「ミッドナイトスワン」主演の草なぎ剛さんと内田英治監督に、草なぎさんにオファーした理由やリサーチしたことなどを聞きました。

映画「ミッドナイトスワン」で主演を務める俳優の草なぎ剛さんと内田英治監督。同作は、新宿のショーパブのステージに立つトランスジェンダーの凪沙(草なぎさん)は養育費目当てで、親戚の少女・一果(服部樹咲さん)を預かることにします。社会の片隅に追いやられてきた凪沙と、実の親の育児放棄によって孤独に生きてきた一果は一緒に暮らす中で、かつてなかった感情が芽生え始める…内田監督のオリジナル作品です。
オトナンサー編集部では、草なぎさんと内田監督にインタビューを実施。草なぎさんにオファーした理由やリサーチしたことなどを聞きました。
自然に「凪沙」になっていた
Q.草なぎさんをオファーした理由を教えてください。
内田監督(以下敬称略)「キャスティングは難航していて、知り合いのカメラマンさんから草なぎさんの話を聞いて興味を持ちました。台本を読んでいただき、実現しました」
草なぎさん(同)「読んで、演じたいと思いました。読みながら、何の涙か分からないけどあふれてきてたんです。これはもう他の人に渡したくないと思い、出演しました」
Q.リサーチはどのくらいされましたか。
内田「映画を撮るときは基本的に取材します。今回はトランスジェンダーの方々や風俗店に勤務されている方々に話を聞きました。劇中、出てくる話はほとんど実話です。草なぎさんには勉強してもらうため断片的に話しました」
草なぎ「いろいろな方とお話しし、資料のDVDも頂きました。この脚本を書いて監督をするので、並々ならぬリサーチをされていたからか、監督の目を見ると血走っていました。衣装合わせのときに僕の中で芽生えるものがあって、ヘアメークも、したことがない女性っぽい感じにしていただき、鏡を見たときに火がついて、それを監督が見逃さず捉えてくれています。そこを大事にしてくれて、僕は監督の情熱についていきました」
Q.草なぎさんの「凪沙」はいかがでしたか。
内田「撮影中に気が付いたんですが、草なぎさんは役が憑依(ひょうい)するタイプでした。役を作る方もいらっしゃいますが、草なぎさんは乗り移るタイプなので、思いもよらない行動やセリフが出てきて、そんな草なぎさんを見るのが楽しくなっていきました。
順撮りに近かったので、どんどん変化していくのが面白かったです。海で『美しい』と草なぎさんが言うシーンがあるのですが、このセリフは台本にはないセリフなんですよ。草なぎさんの中から出たセリフでした」
草なぎ「自然に凪沙になっていて、無意識の状態であまり覚えていません。でも、一番いい状態で演技をしていたと思います。それは一果役の服部さんも同じで、彼女は演技が初めてで計算ができません。そういう環境で順撮りをしていたので、『美しい』と自然に出たんだと思います。監督自身も狙ったら嫌がる人だろうなと思ったので、より自然になっていました。こんな撮影はなかなかないし、最高の体験です」
Q.凪沙は一果のために変わっていきますが、この作品を撮る中で変化したことはありますか。
内田「いろいろな経験をこの映画でさせていただいて、海外の映画祭にも出展したのですが、この作品は日本でも勝負できる作品だと思っています。草なぎさんが出るので上映館も増えます。考え方も、前は周りから抜けてやると思っていましたが、すごく変化がありました。それは出演者たちの影響が大きかったです」
草なぎ「作品に出るごとに知らない世界と触れられます。凪沙も挑戦だったので、スタッフと試写を見たときに、ちゃんと乗り越えて演じられたと自信になりました。監督と初めて仕事をして、スタッフさんも初めての方がいるので新しい刺激になり、内面が変化します。その変化の積み重ねです。
コロナで大変なことになっていますが、この作品を今出すことに意味があると思います。こんな時期だからこそ、見てもらいたいという気持ちが強いです」
Q.草なぎさんに要望は出されましたか。
内田「出してないですね。思い付かないので、現場では細かいアドリブのむちゃぶりはした気がします。台本にないシーンを無理やり作って、アドリブをしてもらいました」
草なぎ「監督は何も要望を出されなくても、すごい圧力というか、作品に対する気持ちが何も言わなくてもプレッシャーになりました。でも、それは大事なことで、それによって、みんなついていくと思います」
映画「ミッドナイトスワン」は全国公開中。
撮影:齋藤さおり
(オトナンサー編集部)
ネットで予告を見ただけで、涙が止まりませんでした。トランスジェンダーなんだけど、見ているうちに女性にしか見えなくて、特にバレエの先生に、「お母さん」って、呼ばれた時の、凪沙の表情が忘れられないです。