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盗撮や追跡で解決遠のく? 「ごみ屋敷」特集、あおりではない理想的な報道姿勢とは?

テレビの情報番組では、「ごみ屋敷」特集が定期的に報道されますが、報道が原因で支援に悪影響が起きている事例もあるようです。

「ごみ屋敷」問題、どう伝えるべき?
「ごみ屋敷」問題、どう伝えるべき?

 テレビの情報番組では、定期的に「ごみ屋敷」特集が放映されますが、その内容は、膨大なごみから悪臭が漂う様子を伝えるもの、自己中心的な理由を家主が述べるもの、近隣住民が「ごみをため込んで困る」と迷惑そうに話すものなど、家主が周囲に迷惑をかけていることを批判的に伝えることが多いです。家主が迷惑をかけているのは事実としても、一方で、表層の現象を中心にした伝え方は家主への偏見をあおるだけで、逆に問題の解決が遠のくのではないかという見方もあります。

 番組には、どのような報道のあり方が求められるのでしょうか。ごみ屋敷の問題に詳しい、東邦大学大学院看護学研究科の岸恵美子教授(公衆衛生看護学)に聞きました。

マスコミの取材で支援に悪影響も

Q.ごみ屋敷特集では、膨大なごみの山や、家主がごみを集める様子を隠し撮りして直撃インタビューするなどの、インパクトがある映像が多いです。こうした映像を視聴者が見ることで、どのような影響がありますか。

岸さん「視聴者に悪影響を与えると思います。映像では、ごみが散らかっている“現象”のみが印象に残りやすいので、視聴者が家主を『変わった人だ』『おかしいのではないか』などと誤解してしまう可能性があるからです。ごみ屋敷の家主に対し、視聴者が不快に思ったり敵対視したりするような、一方的な感情を持たないかと心配しています」

Q.どのような伝え方に、特に問題があると思いますか。

岸さん「例えば、ごみのたまった家でどのように寝ているのかと夜中に撮影する、家主の外出先を後ろから追いかける、直撃インタビューと称して無理やりマイクを向けるなどです。こうした行為によって、家主も不快な思いをしますし、人への不信感を持つ家主なら、より不信感を助長してしまうと思います。

また、ごみ捨て場からごみを持ち出す様子を盗撮するなど、普通の人とは異なる生活をしていることをことさらに強調して放映することで、視聴者だけでなく、近所の人にも誤解を与えてしまうのではないかと懸念しています。家主の顔や周囲の風景をぼかしてプライバシーを守っているつもりでしょうが、今のネット社会では、さまざまな方法を使って地域を特定することができます」

Q.情報番組が「普通ではない」ところを強調するのは、視聴者が求めているとテレビの制作側が思っているからでしょうか。

岸さん「取材を受けた際、テレビ局の人から『ごみ屋敷を取り上げると視聴率が稼げるんです』と聞いたことがあります。他人の不幸を見ることはインパクトがありますし、自分とは別の世界の出来事だということで、興味関心を誘うのでしょう。

週刊誌の紙面も情報番組と同じで、センセーショナルな見出しを付け、ごみ屋敷の家主がごみを集めている、近所の人は迷惑がって批判している、ということだけで終わっている特集もあります。

ただ、中には、家主がごみをため込む映像を流したとしても、家主の人となりやこれまでの生活の歴史をきちんと掘り下げて伝える番組もあります。家主へ正式に取材を申し込み、家主と時間をかけて信頼関係を築き、背景もしっかりと伝える番組もあります。そうした番組は好感を持って見ています」

Q.情報番組が放映するごみ屋敷特集で、現場では何らかの悪影響が出ているのですか。

岸さん「行政の担当者である保健師やケースワーカーなど、現場で解決のために動いている人たちの中には、テレビのごみ屋敷報道を不適切だと思っている人が少なくないと思います。

行政の担当者から聞いたのですが、マスコミが頻繁に訪れたり、張り込んだりするので、取材されるのが怖くて家主が外に出られなくなった事例があるそうです。また、行政が自分の住所をマスコミに教えたのではないかと家主が誤解して、これまで築いてきた信頼関係が壊れ、家に閉じこもってしまったこともあるそうです。

ごみ屋敷問題はセンシティブであるため、行政からもマスコミに対して取材を自粛してほしいと要請することもあるのですが、『適正に取材する』と言われ、自粛をなかなか聞き入れてくれないことがあります」

Q.ごみ屋敷問題を報道するときに、どのような伝え方がよいと思いますか。

岸さん「まず、ごみ屋敷の家主を取材するときには最低限、家主を一人の人間として尊重する態度で接してほしいです。直撃インタビューや追いかけるようなことをすると、そういうことをしてもよい対象なんだと、周りに思わせてしまう可能性があります。

近所の人は、ごみ屋敷で迷惑を被っているのは事実なので、インタビューすると『早く出ていけばいい』『いい加減にしてほしい』と話すこともあると思います。そうしたコメントを伝える側が『そうですよね』と同調してしまうと、そうした世論が大きくなり、結局は家主が今住んでいる家から追い出されることにつながりかねません。

そして、家にごみが堆積している現象だけを取り上げるのではなく、なぜそのようなことが起きたのかを本人に聞くなり周囲に聞くなりして、要因やきっかけになったこともしっかりと伝えてほしいです」

Q.最近はテレビでも、現象を映像で流した後、専門家がスタジオで原因を解説することもあります。こうした解説をもっと多く伝えた方がよいのでしょうか。

岸さん「そうですね。専門家に客観的な視点で、問題は何なのか、単にごみ屋敷を撤去することでは解決しないということを必ず提示し、解説してもらうと、ごみ屋敷報道も変わるかもしれません。ごみ屋敷の家主の中には、何らかの病気や障害の人もいます。また、病気や障害はないもののコミュニケーションが苦手な人や、ショックな出来事があり、ごみを集めるようになった人もいます。事情はさまざまで複雑なので、家主を傷つけないような対応をしてほしいです。

また、面白おかしく伝えるのではなく、社会問題として対応していかなければならないというメッセージを伝えてほしいです。もちろん、近所の人も困っていると思いますが、私たち誰もがそうなる可能性があります。家主を一方的に悪とするような偏った報道にならないようにしてほしいです」

(オトナンサー編集部)

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