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「きの食べ」と「わた定」、春ドラマ2大ヒット作の“意外な”共通点

春ドラマで評判の高い「きのう何食べた?」「わたし、定時で帰ります。」。それぞれ、ゲイカップルの食卓、現代人の働き方という異なるテーマを扱いながら、意外な共通点があるようです。

西島秀俊さん(Getty Images)
西島秀俊さん(Getty Images)

 今春の連ドラが中盤から終盤に突入して盛り上がりを見せていますが、中でも評判が良く、SNSの動きが活発なのは「きのう何食べた?」(テレビ東京系、以下「きの食べ」)、「わたし、定時で帰ります。」(TBS系、以下「わた定」)の2作。

 ネット上には、単純な世帯視聴率の高低では測れない、愛情の深さや影響力の大きさを感じさせるツイートが飛び交い、筆者の元にも各メディアから両作に関するコメント依頼が増えています。

 注目は、「きの食べ」はゲイカップルの食卓、「わた定」は現代人の働き方という全く異なるテーマながら、意外なほど共通点があること。両作は現在のドラマシーンに必要なヒットの要素を持ち合わせているのです。

キャラクターと舞台の設定が「普通」

 両作とも、類いまれなる能力を持つ主人公がいるわけでも、特別な世界を描いた話でもなく、「普通の人が普通の暮らしをしている」というキャラクターと舞台の設定で一致。さらに、「きの食べ」の筧史朗(西島秀俊さん)は安売りスーパーで食費を月2万5000円以内に抑え、「わた定」の東山結衣(吉高由里子さん)は仕事後に中華料理店でハッピーアワーのビールを飲むのが日課という庶民的なキャラクターを強く印象付けています。

 また、「きの食べ」はゲイの生きづらさ、「わた定」は働き方改革がなかなか進まない現実というシビアな問題を扱っているにもかかわらず、どちらも暗いムードはありません。主人公は深刻になりすぎることも、無理して頑張りすぎることもなく、周囲に振り回されそうになっても自分のペースを崩すことなく乗り切ろうとしています。

 そのため、「きの食べ」は「ゲイはこういうふうに生きていくべきだ」、「わた定」は「残業しないためにはこうすべきだ」という強烈なメッセージを示そうとせず、その解釈を視聴者に委ねています。

 もう一つの共通点は、理想的なパートナーがいて、根っからの悪人が登場しないこと。「きの食べ」の史朗と矢吹賢二(内野聖陽さん)は、毎日夕食を共にし、けんかをしてもすぐに仲直りできますし、「わた定」の結衣には、別れても思い続けてくれる上に仕事でもフォローしてくれる種田晃太郎(向井理さん)と、優しく家庭的な恋人の諏訪巧(中丸雄一さん)の2人がいます。一方で、無自覚で主人公を傷つけてしまう人物こそいますが、悪意に満ちた人物はいません。

リアルとファンタジーの好バランス

 つまり、両作は「普通の人間が普通の暮らしをする」という点ではリアルなのですが、「理想的なパートナーがいてほとんど悪人がいない」という点ではファンタジーの作品なのです。

 この点は、「リアルなところがなければ興味が持てない」「シビアすぎて癒やしがないと見る気がしない」といわれる現代視聴者にフィット。一方で、「リアルすぎると重い」「ファンタジー過ぎるとさめる」と言われる中、今春に放送されている他の連ドラと比べると、リアルとファンタジーのバランスという点でずば抜けているのです。

 だからこそ、両作は「考えさせられるのに、温かい気持ちになれる」「ストレスなく見られる上に、癒やされる」と評されるなど、視聴後感が良いのでしょう。反響の大きさを踏まえると、今後しばらくは両作のようにリアルとファンタジーのバランスを追求した、「温かさ」と「癒やし」を感じさせるドラマが増えそうです。

 近年、「刑事」「医師」「弁護士」が主人公のドラマが多かっただけに、もしかしたら、間もなく訪れる2020年代に向けて業界の転機となる作品なのかもしれません。

(コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志)

木村隆志(きむら・たかし)

コラムニスト、テレビ解説者

雑誌やウェブに月間20本強のコラムを提供するほか、「週刊フジテレビ批評」などに出演し、各局のスタッフに情報提供も行っている。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもあり、新番組と連ドラはすべて視聴するなど1日のテレビ視聴は20時間超(同時含む)。著書に「トップ・インタビュアーの『聴き技』84」「話しかけなくていい!会話術」など。

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