いくつ知ってる? 法的に認められる「離婚の理由」5つ、弁護士が解説 “離婚できない”ケースも
離婚を希望する理由の中には、「法定離婚事由」という“法的に認められる理由”があります。どんな内容なのか、弁護士に聞きました。

「離婚したい」と考える理由は人によってさまざまですが、離婚を望む理由の中には、法的に認められる「法定離婚事由」というものがあります。実際に、どのような理由が法的に認められているのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
「一方の意思に反してでも、離婚を認めるべき事由」
Q.法的に認められている離婚の理由「法定離婚事由」とは何ですか。
佐藤さん「『法定離婚事由』とは、民法770条1項各号に定められている、裁判で離婚する際に必要となる5つの理由です。夫婦の話し合いにより、お互いが納得して離婚する場合には、どんな理由であっても離婚できますが、話し合いが成立せず、裁判で離婚する場合には、次の法定離婚事由が必要になります」
【不貞行為】(民法770条1項1号)
配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結んだ場合、不貞行為があったとして、裁判上の離婚事由になります。
【悪意の遺棄】(同条2号)
「悪意の遺棄」とは、夫婦の義務を放棄することです。夫婦は、同居し、互いに協力し扶助する義務(民法752条)や婚姻から生じる費用を分担する義務(民法760条)を負っており、こうした義務を正当な理由なく果たさなければ、離婚事由になります。
例えば、単に「一緒にいたくないから」などという理由で別居を始め、配偶者や扶養が必要な子へ十分な生活費を送らないようなケースでは、悪意の遺棄と認められるでしょう。
【配偶者の生死が3年以上明らかでない】(同条3号)
警察へ捜索願を提出し、捜索しても見つからず、配偶者の親戚や知人にも一切連絡がなく、あらゆる手段で連絡を試みても配偶者と連絡がつかないような状況が3年以上継続すると、離婚事由になります。
【配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない】(同条4号)
夫婦として相互に協力し合う義務を十分に果たせないほど、精神病の程度が重く、長期間にわたる治療を継続しているものの、回復の見込みがないようなケースで認められます。ただし、治療の進歩により、回復の見込みがないと判断されるケースは少なくなっています。
【その他、婚姻を継続し難い重大な事由がある】(同条5号)
婚姻中の一切の事情を考慮しても、婚姻関係が破綻しており、修復の見込みがないことをいいます。
婚姻関係の破綻については、別居期間の長さが重視されます。例えば、配偶者からの暴力や暴言があったり、不貞行為があったかどうかは定かでないものの、配偶者以外の者と親密な関係が続いていたり、性格の不一致によりけんかが絶えなかったり…と、さまざまな理由により、婚姻関係にひびが入ることがありますが、それだけで直ちに離婚が認められるわけではなく、別居期間なども含め、総合的に婚姻関係の破綻が認められるかどうか判断されます。
Q.離婚を希望する理由が、これらの「法定離婚事由」に該当する場合、必ず離婚できるのですか。
佐藤さん「法定離婚事由に該当しても、離婚できないケースはあります。民法770条2項は、『裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる』と定めており、不貞行為や悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みのない強度の精神病といった事情があったとしても、裁判所の裁量によって離婚できないケースがあります。
例えば、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとしても、直ちに離婚を認めてしまうと、病者の療養や生活に支障が出てしまうケースがあります。そこで、裁判所は、病者の今後の療養や生活などについて、できる限りの具体的方途を講じ、ある程度、その方途の見込みがついた上でなければ、直ちに離婚を認めることは不相当と判断しています(最高裁1958年7月25日判決)。
また、離婚の原因をつくった側からの離婚請求は、原則として認められません。例えば、不貞行為をした側が『自分は配偶者以外の異性と性関係を持ったから、離婚を認めてほしい』と裁判所に訴えたとしても、自己都合による身勝手な言い分であるため、原則として認められないことになります」
Q.これらの「法定離婚事由」はなぜ、法的に認められているのでしょうか。
佐藤さん「『不貞行為』や『悪意の遺棄』は、夫婦の信頼関係を壊し、一般に、夫婦関係を破綻させる理由だからでしょう。
『3年以上の生死不明』の場合、実質的な婚姻関係を継続することができず、離婚を認めないと、再婚することもできなくなってしまうからです。
『回復の見込みのない強度の精神病』の場合、病者を支える立場にある配偶者の体力や精神力などが、限界に達することがあり、意思に反して、配偶者として病者を扶助する義務を負わせ、病者の看病を強制することはできないと考えられたからです。
その他、婚姻関係が破綻する理由はさまざま考えられますが、夫婦関係を修復する見込みが全くないのであれば、離婚を認めるべきであり、『その他婚姻を継続し難い重大な事由』として認められています。
夫婦関係にひびが入る原因は、夫婦の数だけ無数に存在し、法定離婚事由になっていないものもたくさんあります。どんな理由であれ、夫婦で話し合うことで、修復の見込みがあるのであれば、裁判所によって、一方の意思に反して強制的に離婚させるべきではありません。つまり、法定離婚事由とは『一方の意思に反してでも、離婚を認めるべき事由』であるといえるでしょう」
(オトナンサー編集部)
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