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長澤まさみ、「エルピス」で追求するリアルな人物像 地に足着いた芝居&華やかさの両輪

良い意味で一貫性のない人物造形

 また、目を見張るのは、長澤さんのリアルで奥行きのある人物造形です。恵那はその時、その時の状況に左右される、ある意味で不安定なキャラクターといえます。例えば、第1話冒頭での恵那は食べることも寝ることも満足にいかず、常に血の気のない顔色をしていました。

 いろいろなことを飲み込むたびに重なってきたストレス、権力による作為に満ちた世界に対する拒否感から、恵那が吐き気に襲われる場面での壮絶な演技が話題に。かと思えば、冤罪事件を追っていくうちに人としての熱を帯び、次第に“正義”という名の快楽に溺れていき、恵那の首の皮一枚でつながっているような“危うさ”を、長澤さんは表現していました。

 その一方で、元恋人のエース記者・斎藤(鈴木亮平)の有無を言わせぬ強引さと、その表裏一体の安心感に包まれ、楽な方に流されていく姿も体現。そこではまるでメロドラマのように乙女な顔をして見せるなど、恵那のさまざまな表情を視聴者に印象づけています。しかし、たった一人で真相解明に挑む岸本を前に目を覚まし、ようやく本当の意味で落ち着きを取り戻すまでの、シーソーのように行ったり来たりする恵那の心情を長澤さんは見事に映し出していました。

 とはいえ、第6話の終盤では、恵那が報道キャスターとしての仕事に追われ、再び冤罪事件から足が遠のく予感も漂わされています。良い意味で一貫性がなく、とはいえ解離しすぎてはいない、その絶妙なバランスで成り立っている人物造形がとてもリアルです。

 近年の長澤さんは、実在の事件から着想を得て、母と息子の歪んだ関係を描いた映画「MOTHER マザー」や、二人のテレビマンが前科者の生き様を追う映画「すばらしき世界」など、社会的意義のある作品に次々と出演。パッと華やぐ存在感はそのままに、地に足のついた確かな演技で重厚な物語に違和感なく入り込んでいます。

 「エルピス」での名演はその集大成とも言え、俳優としてのステージをまた一段階上げたことを裏付けました。今後も、さまざまな作品に引っ張りだこになることは予想でき、視聴者に新たなインパクトを与える活躍に期待したいと思います。

 エルピス第7話は12月5日に放送されます。

(オトナンサー編集部)

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苫とり子(とま・とりこ)

エンタメ系ライター

1995年、岡山県生まれ。東京在住。学生時代に演劇や歌のレッスンを受け、小劇場の舞台に出演。IT企業でOLを務めた後、フリーライターに転身。現在は「Real Sound」「AM(アム)」「Recgame」「アーバンライフメトロ」などに、エンタメ系コラムやインタビュー記事、イベントレポートなどを寄稿している。

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