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手洗い延々、「強迫性障害」で家族も疲弊 どう対応? 精神科専門医に聞く

「強迫性障害」という病気は、家族も巻き込まれて苦労することがあるようです。どう対応すればよいのでしょうか。

「強迫性障害」、家族はどう対応?
「強迫性障害」、家族はどう対応?

 戸締まりを何十回も確認したり、不必要なまでに手洗いを繰り返したりして、日常生活に大きな支障が出てしまう「強迫性障害」という病気があります。本人も苦しんでいることが多い「強迫性障害」ですが、家族も巻き込まれて苦労することがあるようです。強迫性障害に気付いたとき、家族は、どのように対応すればよいのでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

共感示し、受診を検討

Q.まず、強迫性障害について、症状や原因を教えてください。

田中さん「強迫性障害とは、(1)ある考えやイメージにとらわれる『強迫思考』や(2)戸締まり、スイッチオフなどを何十回も確認したり、手洗いや掃除を不必要に繰り返したりする『強迫行為』のために、日常生活に著しい支障が出るものです。(1)の『強迫思考』と(2)の『強迫行為』は併せて『強迫症状』と呼ばれますが、これらの症状はここに書き切れないくらいバリエーションが豊かなのが特徴です。

原因としては、脳機能の異常(例えば、神経伝達物質のセロトニンの機能異常、神経ネットワークの異常など)があるのではないかと考えられています」

Q.強迫性障害の人は、家族を巻き込んでしまうことがあると聞きます。家族がどのように巻き込まれるのでしょうか。巻き込まれた家族がどのようになるかを含めて教えてください。

田中さん「以前から強迫性障害には『巻き込み型』と『自己完結型』があることが知られています。本人のみならず、家族も強迫症状に巻き込まれてしまうのが『巻き込み型』ですね。

具体的に説明すると、戸締まりができているかどうかを(自分で確認するだけでなく)家族に何度も確認したり、手洗いや掃除を(自分で不必要に繰り返すだけでなく)家族に強要したりします。

家族も最初は軽く手伝うことで済ませていますが、だんだん普段の活動に影響が出るほどに強迫行為をやらされるようになり、最後には家族全員がすっかり疲弊してしまうことも、まれではありません。

問題は、強迫症状を家族に肩代わりしてもらうせいで、本人の病状が一向に良くならないだけでなく、むしろ悪化することです。家族を巻き込むことによって、負のサイクルが起こっていると言えましょう」

Q.巻き込まれた家族が自らも強迫性障害を発症したり、その他の精神疾患を発症したりするケースもあるのでしょうか。

田中さん「一般的に、強迫症状に巻き込まれた家族が強迫性障害を発症することはないと思われます。しかし、先に述べたように、無理して強迫行為をやらされ、疲弊し、『燃え尽き症候群』に至る寸前になることはあるかもしれません。あるいは、看病疲れによって広義のうつ状態(適応障害)を発症することはあり得ると思います」

Q.巻き込まれそうになった家族が、手洗いや掃除を拒否した場合、強迫性障害の患者さんの症状は悪化するのでしょうか。それとも改善のきっかけになり得るのでしょうか。

田中さん「最初は家族も『よかれ』と思って強迫症状に苦しんでいる患者さんの手助けをするわけで、それを急にストップすると、患者さんは非常に不安定になってしまうことが考えられます。

いわゆる『パニック』の状態に陥って、より一層家族を巻き込むようになったり、逆に孤立した患者さんが、より一層強迫症状にとらわれるようになったりして、病状が悪化する恐れがあります。家族が患者さんとの付き合いを中途半端で投げ出して病状が改善することは、まずないと思われます」

Q.「強迫性障害ではないか」と家族が気付いた場合、どのように対応するのがよいでしょうか。強迫症状への対応や、受診の勧め方などを教えてください。

田中さん「『強迫性障害ではないか』と家族が気付いた時には、一般的な対処で解決できていないということなので、メンタルクリニックの受診を考慮する段階にきていると思います。強迫症状がある人に対して『治療可能な病気の症状であるかもしれない』ことを伝え、前もって受診日を設定し、予約を取るようにしましょう。

その際、何よりも大切なのは、強迫症状のせいで日常生活に支障が出るほどに苦しんでいることに、共感を示すことです。睡眠不足があったり、勉強や仕事に影響が出たり、手荒れがひどくなったりしていることに焦点を当て、そのつらさから解放されるために治療を受けたほうがよいことを話し合いましょう。

それから、強迫症状のせいで当日外出できないなんてことが起こらないように、受診日を繰り返し確認して、外出の準備を整えておくことが肝心です。ただし、『受診のチャンスは何度もある』という余裕も持っておきたいところです。余裕があったほうが、一度でうまくいく確率が上がるように思います」

(オトナンサー編集部)

田中伸一郎(たなか・しんいちろう)

医師(精神科専門医、産業医)・公認心理師

1974年生まれ。久留米大学附設高等学校、東京大学医学部卒業。杏林大学医学部、獨協医科大学埼玉医療センターなどを経て、現在は東京芸術大学保健管理センター准教授。芸術の最先端で学ぶ大学生の診療を行いながら、「心の問題を知って助け合うことのできる社会づくり」を目指し、メディアを通じて正しい知識の普及に努めている。都内のクリニックで発達障害、精神障害などで悩む小中高生の診療も行っている。エクステンション公式YouTubeチャンネル内「100の質問」(https://youtu.be/5vN5D9k9NQk)。

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