計8作の深夜ドラマを手掛けるテレビ東京、新枠2つの“深い意味”とは?
春ドラマが出そろう中、テレビ東京のドラマが異彩を放っています。9作中8作が午後11時~午前1時台の深夜帯に集中、その理由を筆者が解き明かします。
4月30日に3作のドラマがスタートし、ようやく、各局の春ドラマが出そろいました。
今春は連ドラ初の裁判官が主人公の「イチケイのカラス」(フジテレビ系)、16年ぶりの続編となる「ドラゴン桜」(TBS系)、石原さとみさんと綾野剛さんが初共演するラブコメ「恋はDeepに」(日本テレビ系)など多彩なジャンルがそろい、コロナ禍のステイホーム期間中と重なったこともあって、多くの作品が話題を集めています。
さまざまな作品がそろう中で異彩を放っているのは、テレビ東京のドラマ。
「珈琲いかがでしょう」(月曜午後11時6分)、「DIVE!!」(木曜午前0時)、「理想のオトコ」(木曜午前0時40分)、「ラブコメの掟~こじらせ女子と年下男子~」(木曜午前1時10分)、「ゆるキャン△2」(金曜午前0時30分)、「警視庁ゼロ係~生活安全課なんでも相談室~Season5」(金曜午後8時)、「生きるとか死ぬとか父親とか」(土曜午前0時12分)、「ソロ活女子のススメ」(土曜午前0時52分)、「私の夫は冷凍庫に眠っている」(土曜午後11時25分)と他局の倍以上となる9作を放送しているのです。
しかも、9作中8作が午後11時~午前1時台の深夜帯に集中。なぜ、テレビ東京は深夜帯のドラマをここまで集中的に制作しているのでしょうか。
「深夜ドラマならテレ東」のブランド
特筆すべきは今春、テレビ東京が2つのドラマ枠を新設したこと。「珈琲いかがでしょう」「私の夫は冷凍庫に眠っている」は新設ドラマ枠第1弾の作品であり、ともに深夜帯であるところが示唆に富んでいます。これで、テレビ東京は月曜、水曜、木曜、金曜、土曜の深夜帯にドラマ枠を持つことになり、「深夜ドラマならテレ東」のイメージを確立することにつながっていくでしょう。
また、作品ジャンルに目を向けると、「珈琲いかがでしょう」は平日夜に人々の疲れやストレスを癒やすようなハートフル作であり、「私の夫は冷凍庫に眠っている」はエッジの効いたホラーサスペンス。別の曜日には王道のラブコメ、アイドルの主演ドラマなどもあり、曜日ごとにさまざまなジャンルの作品をそろえていることが分かります。
もともと、深夜ドラマはゴールデン・プライム帯の作品ほど視聴ターゲット層は広くありません。「このターゲットに深く刺そう」と狙いを定めて、作品の世界観を追求する傾向が強く、それこそがテレビ東京が得意とする制作スタイルなのです。
また、動画配信サービス「Paravi」を絡めたビジネスチャンスであることも深夜ドラマが増えている理由の一つ。主にParaviの会員向けサービスとして収入を得られるほか、予算面での負担も軽減できます。さらに先行配信することで、新規会員の獲得にも貢献できるでしょう。
ストック型のコンテンツであるドラマと、Paraviに限らず、「好きなときに好きな場所で好きな分だけ見られる」動画配信サービスとの相性は良好。また、1話30分の深夜ドラマはネットで気軽に見やすい長さであり、会員の満足度アップや新規会員の確保につながりやすいのです。
深夜ドラマならではのノウハウと実績
テレビ東京が深夜帯のドラマを集中的に制作している理由として、もう一つ挙げておきたいのは、スタッフとキャストのモチベーションを上げられること。
ゴールデン・プライム帯のドラマは視聴率の確保が前提条件であり、十分なコンプライアンス対策とスポンサーへの配慮が必要とされます。一方、深夜帯なら、それらの多くが不要になり、スタッフとキャストが伸び伸びと撮影に挑むことが可能。また、低視聴率などのネガティブな報道に悩まされることもないため、クリエーティブファーストで気持ちよく仕事ができ、だからこそ、力のあるスタッフとキャストが集まっているのです。
ただ、深夜帯のドラマには「予算が少ない」「スケジュールを割きづらい」という短所があるのですが、そこはテレビ東京らしい工夫でカバー。テレビ東京の深夜ドラマはわずか数週間で集中的に撮影するケースも多く、そのノウハウと実行力は他局の追随を許しません。例えば、引く手あまたのベテラン俳優を集結させた「バイプレイヤーズ」が実現できたのもテレビ東京だからでしょう。
近い将来、テレビ東京が火曜と日曜の深夜ドラマ枠を新設しても驚きはありません。もし、それが実現したら“全曜日コンプリート”になり、ひいてはテレビ東京に限らず、深夜ドラマ全体の価値向上につながるのではないでしょうか。
(コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志)
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