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マスクを買い占め、高額転売する人を「国民生活安定緊急措置法」で規制できる?

新型コロナウイルス感染が広がる中、「国民生活安定緊急措置法」で、マスクや消毒用アルコールなどを大量に買い占め、高額で転売している人を規制したり罰したりできるのでしょうか。

各地でマスクの品薄状態が続く
各地でマスクの品薄状態が続く

 政府はメーカーからマスクを買い取り、新型コロナウイルスによる肺炎(COVID-19)の感染者が増えている北海道の住民に配布する方針を決めました。「国民生活安定緊急措置法」に基づいた判断とのことですが、あまり聞き慣れず、どのようなことが規定されているのかもいまいち不明です。

 文字通り「緊急で必要な物資を安定的に供給する法律」であれば、この法律を適用して、マスクや消毒用アルコールなど必要な物資を大量に買い占め、高額で転売している人を規制したり、罰したりすることはできないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

1973年、第1次オイルショック時に制定

Q.国民生活安定緊急措置法は、どのような経緯から制定されたのですか。また近年、適用された事例はあるのでしょうか。

牧野さん「国民生活安定緊急措置法は、第1次オイルショックが始まった1973(昭和48)年に制定されました。トイレットペーパーや洗剤など、原油価格と直接関係のない物資の買い占め騒動による物価の高騰という異常事態に対処するためです。

同法22条では、特定地域で生活関連物資の供給が不足することで、住民の生活や地域経済に影響が出る恐れがある場合、政府が業者に物資の数量や価格などを定めて売り渡しを指示することができ、従わない場合は業者名を公表できると定めています。

26条では、生活関連物資が著しく不足し、国民生活に支障が出る恐れがある場合、政令で物資の譲渡禁止などの措置を定められるとしています。ただ、少なくとも近年は適用事例がなかったようです」

Q.新型コロナウイルス感染が広がり、マスクや消毒用アルコールなどが大量に買い占められ、高額で転売されているケースがあります。こうした行為を規制したり、罰したりすることは可能なのでしょうか。

牧野さん「国民生活安定緊急措置法で買い占めや高額転売を規制することはできますし、同法に基づく政令で、そうした行為に罰則を設けることも可能です。

政府は、2020年3月3日に新型コロナウイルスの国内感染拡大を受け、供給が不足しているマスクを製造・販売するメーカーから一括して買い取ることとし、緊急性の高い地域から配布することを決めました。22条に基づくものと思われます。

今後、アルコール消毒液などの不足物資を安定して供給するため、マスク以外にも対象物品が拡大される可能性があり、これにより、高額転売をある程度は規制できると思います。なお、政府は3月10日をめどに、第2弾の緊急対応策として、追加でマスクを新たに買い取り、全国規模で配給すること(22条に基づく)やマスクの転売を禁止すること(26条に基づく)を検討しています」

Q.国民生活安定緊急措置法26条に基づく政令に違反した場合、罰則があり得るとのことですが、どのような罰則があるのですか。

牧野さん「必要とされている物資を大量に買い占めたり、高額で転売したりする行為をした者に対して、5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金を科すことを政令で定めることができます」

Q.国民生活安定緊急措置法が久しぶりに日の目を浴びたように、生活必需品を大量に買い占めたり、高額で転売したりすることを規制し、罰することが、日本ではあまり行われていないように感じます。

牧野さん「物品などの売買をむやみに規制することや処罰することは、本来は自由であるべき国民の経済活動に政府が介入することを意味するので、慎重にならないといけないからです。独占禁止法などの経済法による規制対象(不当廉売、価格カルテルなど)となる場合以外は、規制や処罰の対象とならなかったのです。

ただし、最近では、イベントチケットの高額転売などの社会問題については個別に対処されており、チケットの高額転売を禁止する『チケット不正転売禁止法』が2019年6月14日に施行されています」

Q.今後、マスクのような生活必需品の買い占めや高額転売を直接的に取り締まる法律は、必要だと思われますか。思われませんか。

牧野さん「ネット社会では、現状では不正な高額転売が簡単に行えるようになっています。チケットについてチケット不正転売禁止法があるように、今後も新たな感染症が流行したときに備えて、『マスク不正転売禁止法』のような立法があってもよいと思います」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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