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ネットにあふれる「簡単に稼げる」広告 稼げなかったら返金請求できる?

「〇万円稼げる」「未経験でも〇〇円稼ぐ方法」などとうたうセミナーや情報商材で教えられた方法を実践したものの、広告の内容通りに稼げなかった場合、事業者や著者に返金を求めることはできるのでしょうか。弁護士に聞きました。

「〇万円稼げる」とうたうセミナーに問題は?
「〇万円稼げる」とうたうセミナーに問題は?

 サラリーマンの平均年収が伸び悩む中、少しでも収入を増やそうと副業に励む人が増えています。そうした需要に応えるためなのか、ネット上では、「簡単に稼げる」「〇万円稼げる」「未経験でも〇〇円稼ぐ方法」とうたうセミナーや情報商材などの広告があふれています。もし、セミナーの参加後や情報商材の購入後、それらの言う通りに実践して、広告の内容通りに稼げなかった場合、彼らに返金を求めることはできるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「稼げる根拠」がないと違法の可能性も

Q.ネット上では、「簡単に稼げる」「〇万円稼げる」「未経験でも〇〇円稼ぐ方法」とうたうセミナーや情報商材などの広告があふれています。そもそも、「稼げる」とうたう広告は、法的に問題ないのでしょうか。法に抵触した場合の罰則も含めて、教えてください。

佐藤さん「『稼げる』とうたうものが、すべて違法なわけではありません。セミナーや情報商材には、さまざまなものがあり、今回問題となっている『誰でも、簡単に、高額収入を得られる』といったものもあれば、『受験に受かる勉強法』『異性にモテる方法』といった内容もあるでしょう。これらの多くは、有益な情報を適正価格で販売しており、適法です。

ただし、中には、違法性が認められるセミナーや情報商材も存在します。例えば『虚偽または誇大な広告』や『不実告知』(勧誘の際、重要事項について、うその事実を伝える)、『断定的判断の提供』(将来、消費者が受け取る金額など、将来における変動が不確実なものについて断定的判断を提供すること)などは、『消費者の利益を不当に害する恐れがある行為』とされており(消費者安全法施行令3条)、消費者から、国民生活センターや消費生活センターに苦情や相談が多く寄せられると、消費者庁は調査を開始します。

そして、消費者の利益を不当に害する恐れがある行為が確認されると、さらなる被害の発生や拡大を防ぐため、事業者名や具体的な事例の概要などを公表します(消費者安全法38条1項)。

場合によっては、悪質なセミナーや情報商材を提供している事業者が、詐欺罪(刑法246条、10年以下の懲役)や特定商取引法違反の罪を犯したとして、刑事罰を科されることもあります。特定商取引法は、一定の取引形態において、『不実告知』や『威迫(威力を示して相手を脅し従わせようとすること)・困惑』などを禁じており、違反すれば『3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する』と定めています(特定商取引法70条1号)」

Q.では、「簡単に稼げる」「〇万円稼げる」「未経験でも〇〇円稼ぐ方法」などとうたいつつも、「確実に稼げる保証はありません」「本人の努力次第です」などの注意書きが記載された広告は、法的に問題ないのでしょうか。

佐藤さん「広告の表示については、景品表示法によって『不当な表示』が禁じられるなど(景品表示法5条)、一定の規制がなされています。景品表示法は、一般消費者の利益保護を目的としており、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する恐れのある行為について規制しています(景品表示法1条)。

広告は、自社の商品を選んでもらうために、ある程度の誇張がなされるものであり、一般消費者もその程度の誇張については通常認識しているものと考えられます。そのため、社会一般に許容される程度の誇張であれば規制対象にはならず、それを超えて一般消費者の適切な選択に影響を及ぼす場合に『不当な表示』に当たると考えられています。

『簡単に稼げる』『○万円稼げる』『未経験でも○○円稼ぐ方法』といった表現があったとしても、通常の消費者は、実際に稼げるかどうかは本人の努力や運などによって左右されることを理解しているという評価も成り立ち得るところであり、『確実に稼げる保証はありません』や『本人の努力次第です』などの注意書きがなかったとしても、直ちに違法になるとは言い切れないでしょう。これらの注意書きがある場合には、違法性はより認められにくくなると考えられます。

なお、実際のものよりも著しく優良であると示すことは『不当な表示』(優良誤認表示)に当たります。表示の裏付けとなる合理的な根拠が示せなければ、優良誤認表示になるため、広告では『○万円稼げる』などとうたいながら、内容が合理的根拠のないものであれば、違法性が認められる可能性があります」

Q.「〇万円稼げる」「未経験でも〇〇円稼ぐ方法」などとうたうセミナーに参加したり、情報商材を購入したりしたとします。その後、セミナーの運営会社や情報商材の著者の言う通りに実践したものの、広告の内容通りに稼げなかった場合、相手に返金を求めることは可能なのでしょうか。

佐藤さん「可能な場合もあります。まず、電話勧誘販売やマルチ商法など、一定の形態の取引によって情報商材などを購入した場合、一定期間内であればクーリングオフによって契約を取り消し、返金を求めることができます。

また、消費者契約法は、勧誘に際して『不実告知』や『断定的判断の提供』などがなされ、消費者が誤認して契約してしまった場合には、取り消すことができると定めており(消費者契約法4条1項)、これに基づき返金を求められるケースもあります。その他、民法上の詐欺に当たるとして、契約を取り消し、返金を求める方法も考えられます」

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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