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指の皮をついついむしる…「自傷皮膚症」「強迫性皮膚摘み取り症」はれっきとした病気だ

病気という感覚自体を持ちにくい

Q.皮膚むしり症の治療とはどのようなものでしょうか。

原井さん「皮膚むしり症という病名は教科書にやっと載ったばかりで、精神科医や心理士の9割はまだ知らないでしょう。実際に症状や行動の内容に心当たりのある人でも『単なる癖の一つ』と認識されていることが多いため、『病気かもしれない』という感覚自体を持たない人がたくさんいます。症状の程度には個人差がありますが、『日常生活に支障が出ている』『手や指先が人目に触れる仕事をしている』『本人や家族が困っている』などが治療の必要性を判断する目安でしょう。皮膚むしり症の症状に心当たりがあり、生活や仕事で支障を感じている場合、まずカウンセリングで生活状況と実際の症状などを聞き、皮膚の状態をチェックし、むしり行動を観察することから治療を始めます。その後、本人の習慣や生活に組み込みやすい行動を、皮膚をむしる行為と置き換えて行う『習慣逆転法(ハビット・リバーサル法)』という行動療法を試みます。たとえば、皮膚をむしってしまいそうな時はお菓子を食べるようにしたり、パソコンの溝が気になってしまったら逆にその溝をゆっくりなでるようにしたりするなど、意識と行動を置き換える習慣を取り入れることで改善を目指します。習慣逆転法とカウンセリングを組み合わせて治療を行うと、早ければ3カ月前後で症状が改善されるケースもあります」

Q.専門医の治療を受ける前に自分でできることはありますか。

原井さん「皮膚をむしる、などの症状に心当たりのある人は、心身の変化を自ら確認する『セルフモニタリング』を行ってみてください。まず、日常生活の中で爪や指先を触っていた時間を計って記録し、1日でどのくらいの時間をその行動に費やしているのかを『見える化』してみましょう。むしったものを集めてみるのも効果的です。家のどの場所で過ごす時に皮膚むしりをしているのか把握し、そこにノートを置いておくなど、記録を取りやすい環境を作るのも良い方法です。『毎日1時間は爪を触っている』『こういう感情の時は皮膚をむしっていない』といった自分のパターンが把握できれば、行動を見つめ直しやすくなるとともに、専門医の治療を受ける際にも必ず役に立ちます。一方で、こうした方法を1人で実践しようとすると必ず甘えが生じるものです。皮膚むしり症は、他人に対してオープンにしたくないと思えば容易に隠すことができる個人的病気であり、実際の皮膚むしり行為もパーソナルな空間でしか起きません。しかし、治療のためには症状をパブリックにし、周囲からも見えるようにすることが重要です。専門医はもちろん、家族や友人、必要に応じて職場の上司などに相談し、皮膚むしり行為そのものも含めて、自分を見守ってもらえる環境を整えるのも症状改善への重要な一歩と言えます」

Q.専門家はどうやって選べばよいのでしょうか。

原井さん「DSM-5の中で取り上げられた精神疾患の診断名は約600に上り、精神科医だからといってその全てに対応することはできません。専門家を選ぶ際は、この病名を知っているかどうか、強迫症の新患を年に数人以上診ているかどうか、治した経験があるかどうかを受診予約時に尋ねるとよいでしょう。心理士やカウンセラーに相談する場合、習慣逆転法を使った経験があるかどうかを聞いてください。精神科医を受診する場合は、強迫症に対してどんな薬を使っているかを聞きましょう。フルボキサミン(商品名「ルボックス」「デプロメール」など)、パロキセチン(同「パキシル」など)の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)を処方してもらうと、症状が半分程度緩和されることがあります」

(オトナンサー編集部)

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原井宏明(はらい・ひろあき)

精神保健指定医、精神科専門医、日本認知・行動療法学会認定専門行動療法士、日本動機づけ面接協会代表理事

岐阜大学医学部卒業。米ミシガン大学文学部に留学(文化人類学専攻)。国立菊池病院臨床研究部長、ハワイ大学医学部精神科留学を経て、2017年まで医療法人和楽会なごやメンタルクリニック院長。2018年夏に東京都内で「原井クリニック」(仮称)を開業予定。主な著書に「『不安症』に気づいて治すノート」(すばる舎)「図解やさしくわかる強迫性障害」(岡嶋美代と共著、ナツメ社)「やめたいのに、やめられない」(岡嶋美代と共著、マキノ出版)など。

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