オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

電車の迷惑な酔っぱらいにマスク、会話禁止、下車求めたら「強要罪」になる?

電車内でマスクを着けず、大声で話す酔った乗客にマスク装着や会話の禁止、下車を強く要求することは「強要罪」に問われるのでしょうか。

マスク装着、要求できる?
マスク装着、要求できる?

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う、2度目の緊急事態宣言が解除された首都圏で、飲食店で飲酒をする会社員の姿が宣言中に比べ目立つようになりました。飲酒をして気分が高揚した会社員が帰宅の電車に、顎マスクなど口にマスクを着けていない状態で乗車、同僚と大声で話す光景を見かけることもあります。

 ただ、こうした行為は周囲からすると、その人が検査を受けていない無症状の新型コロナ感染者である可能性もあり、とても迷惑です。こうしたとき、他の乗客がマスク装着や会話の禁止、下車を強く要求することは「強要罪」に問われるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

手段としての「脅迫」「暴行」

Q.強要罪はどのようなときに問うことができますか。

佐藤さん「強要罪は『生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した』場合に成立します(刑法223条1項)。また、相手の『親族を加害する』と告知して脅迫し、相手に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりした場合も同罪に問われます(同223条2項)。

なお、強要罪は未遂であっても処罰対象とされているため(同223条3項)、強要された行為を相手がしなかったとしても罰せられる可能性があります」

Q.コロナ禍の現在、飲酒後に電車内で飛沫を飛ばしながら大声で話している乗客にマスクの装着や会話の禁止、下車を強く要求した場合、強要罪に問われますか。

佐藤さん「要求の仕方によって結論は変わります。先述したように、強要罪は単に義務のないことを行わせただけでは成立せず、手段として脅迫や暴行を用いる必要があります。そのため例えば、『マスクをつけないと殴るぞ』と脅したり、『今すぐ電車を降りろ』と腕を無理に引っ張ったりして、マスクの装着や会話の禁止、下車を強く求めた場合、同罪に問われる可能性があります。

一方、手を出さずに口で注意した場合は、たとえ強い口調であったとしても、『殺すぞ』『殴るぞ』など相手を加害する旨の告知がなければ問われることはありません」

Q.相手を加害することを言わず、口で注意しただけでは罪に問われないとはいえ、率先して、マスクの装着や会話の禁止、下車を強く要求することを始めると新たなトラブルの発生が増えるように思います。自制した方がよいのでしょうか。

佐藤さん「罪に問われなかったとしても、トラブルにつながるような強い要求の仕方は避けるべきです。内容としては正しい注意であったとしても、言い方がきつかったり、高圧的な態度で要求したりすると相手がカッとなって暴力沙汰になることもあり得ます。現在の感染状況を踏まえると、マスクを着けることや大声での会話を控えることなどは非常に重要です。しかし、日本ではマスクの装着が義務付けられているわけではなく、公共交通機関での装着も『お願い』です。

マスクの装着などを求める際も相手への思いやりの気持ちを忘れず、『お願いする』という姿勢が大切になるでしょう。また、直接注意するのが難しいこともあると思いますが、その際は駅の係員を介してお願いするのも一つの方法でしょう」

Q.あくまで「お願い」ということですが、電車の車内アナウンスで「マスクの装着」「大声での会話は控えること」を繰り返し要請しているにもかかわらず、乗客がマスクを口に着けず、大声で話していても法的責任は問えないということでしょうか。

佐藤さん「その通りです。先述したように日本では今のところ、マスクの装着は義務化されておらず、あくまで『お願い』です。大声での会話を控えることについても同様です。そのため、電車の乗客がマスクを口に着けず、大声で話していたとしても法的責任を問うことは難しいでしょう」

Q.マスクを口に着けずに大声で話すのは、感染の可能性を高める行為とされています。法律では、こうした日常生活の細部になるような行為まで細かく禁止するのは難しいのでしょうか。

佐藤さん「日常生活の細部にわたるような行為を一つ一つ、法律で禁止するのは現実的ではありません。そのような方法で禁止すれば、生活はぎすぎすして、社会がうまく回らなくなってしまうでしょう。法的には、人間の行動や発言は『自由』が原則であり、『禁止』するには一定の必要性、合理性、相当性などが必要になります。実際に取り締まる場合、禁止された行為か、禁止されていない行為か、はっきりと区別がつくことも重要です。

感染対策は法律ばかりに頼るのではなく、人々の意識に働きかけ、自発的に取り組んでもらえるようにすることが大切だと思います」

Q.飲酒し、マスクをせずに大声で話す乗客はほとんどの場合、見ず知らずの人で、口頭で注意をするのも勇気が必要です。注意しにくい場合は別の車両に移るなど、理不尽でも自ら避難するしか方法はないのでしょうか。

佐藤さん「本来、飲酒しながらマスクもせず、大声で話すような乗客に対しては周囲が注意するなどして、感染リスクの高い行為のない環境をつくるのが一番だと思います。しかし、実際は注意することが難しいケースも多いでしょう。距離を取ることが何より、自分の身を守ることにつながるので、別の車両に移るなど自ら移動するのもよい方法だと考えます」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

コメント