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西日本は「葛餅」で味も食感も違う…東西の「くず餅」、違いや由来は?

秋の七草の一つ「クズ」を使って作る和菓子が「葛餅」だと、関西以西の人は思っていますが、東京では、味も食感もまったく違う「くず餅」があります。なぜでしょうか。

東西どちらも「くず餅」だが…
東西どちらも「くず餅」だが…

 秋の七草の一つ「クズ(葛)」を使って作る和菓子「葛餅(くずもち)」。やわらかな食感が特徴で、奈良県の吉野や福岡県の秋月が有名な産地…と関西以西の人は思っていますが、東京では、味も食感もまったく違う「くず餅」が売られていて、驚く人もいるようです。東西の「くず餅」の違いについて、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

西日本は「葛粉」、東日本は「小麦でんぷん」

Q.まず、東西の「くず餅」の大きな違いを教えてください。

齊木さん「くず餅は東西において、原料と食感に大きな違いがあります。西日本では、葛というマメ科の植物の根から取れるでんぷんを精製した『葛粉』が原料となっており、透き通った外観で、食べるとつるっとしています。東日本では、小麦を乳酸菌で発酵させた『小麦でんぷん』が原料となっており、見た目は乳白色のひし形に切ってあるものが多く、食感は弾力があります。

漢字表記も異なり、西日本では『葛餅』、東日本では『久寿餅』、あるいは平仮名交じりで『くず餅』と書くことが多いです」

Q.西日本などの「葛餅」について、由来や料理法などを詳しく教えてください。

齊木さん「西日本の葛餅は、奈良県吉野地域が特に有名です。昔から葛の自生地であり、万葉集にも葛を詠んだ歌が多く登場しています。

古代から中世まで、葛の根は米や麦の代用食となったり、体を温める作用があることから、漢方薬(葛根湯など)として利用されたりしてきました。安土桃山時代に入ると、茶席の菓子に葛餅が登場します。江戸時代後期には、砂糖の国内生産量が増えたこと、料理器具の普及や料理書の出版もあり、全国に広がるようになりました。

葛の根を繊維状に粉砕し、真水で洗い、精製すると、そのでんぷんが葛粉になります。最終的には真っ白になりますが、それまで、あく抜きと沈殿を何度も繰り返して不純物を取り除き、良質なでんぷん部分だけを取り出し、日陰干しで乾燥させてようやく完成するのが葛粉です。この状態で保存します。

葛餅にして食べる際は葛粉を水で溶き、鍋に入れて火にかけて、透明感が出るまでゆっくり練ります。練り上がったものをボウルに張ったお湯の中に入れていきますが、このとき、お湯を使うことで、より透明になるそうです。出来上がった葛餅を一口サイズに切り分け、再びお湯にさらして完成です。黒蜜やきな粉をかけて食べます。お湯ではなく、冷水で手早く仕上げる方法もあります。

ただし、先述のように、葛粉の精製には多くの時間と手間がかかること、葛自体の収穫量が少ないことから、国産の葛粉はとても希少で高価な食材となりました。そのため、現在では、中国などの外国産の葛粉や芋・トウモロコシのでんぷんを使った葛餅も多く販売されています。葛の根から取った葛粉100%の粉を、他の植物のでんぷんを使ったものと区別するため、特に『本葛粉』と呼ぶ場合もあります」

Q.東日本の「久寿餅(くず餅)」について、詳しく教えてください。

齊木さん「東日本の久寿餅は、江戸時代に生まれた関東独特のお菓子が発祥だといわれています。

さかのぼること、天保(1830~44年)の頃、川崎(現在の川崎市)に住む『久兵衛』という人物が飢饉(ききん)の際、雨でぬれた小麦粉をそのまま放置していたのを思い出し、蒸してみたのが始まりという説があります。風変わりな餅が出来上がり、それを食べたのが関東の久寿餅の始まりというわけです。

しかし、東日本の久寿餅は、『くず』と名乗っていても『葛』は使われていませんし、『餅』といっても、もち米は使われていません。先述の通り、原料は小麦粉を発酵させたものです。

現在、久寿餅は(1)分離(2)発酵(3)水洗い(4)攪拌(かくはん)(5)蒸す――の工程でできています。

(1)まず、小麦粉に水を加えて練り、絞るとグルテンが残り、水溶性のでんぷんが流れ出てきます。この小麦のでんぷんが原料となります。
(2)でんぷんを寝かせて1~2年ほど自然発酵させます。
(3)発酵した小麦でんぷんを水の中に入れ、不純物を取り除きます。
(4)水洗いした液に熱を加えることで、でんぷんを膨らませ、かき混ぜてとろみを出します。
(5)とろみの出た液体を型に入れて蒸すと餅になります。これを切って、久寿餅の完成です。

実に長い歳月をかけて出来上がります。『和菓子で唯一の発酵食品』ともいわれています」

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齊木由香(さいき・ゆか)

日本礼法教授、和文化研究家、着付師

旧酒蔵家出身で、幼少期から「新年のあいさつ」などの年間行事で和装を着用し、着物に親しむ。大妻女子大学で着物を生地から製作するなど、日本文化における衣食住について研究。2002年に芸能プロダクションによる約4000人のオーディションを勝ち抜き、テレビドラマやCM、映画などに多数出演。ドラマで和装を着用した経験を生かし“魅せる着物”を提案する。保有資格は「民族衣装文化普及協会認定着物着付師範」「日本礼法教授」「食生活アドバイザー」「秘書検定1級」「英語検定2級」など。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yukasaiki)。

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