話していると疲れる…「文句を言いたがる人」「文句が好きな人」の心理とは
クレーム対応の現場や会社の飲み会、家族・友人間など、あらゆるところに存在する「文句を言う人」。彼らの心理について、専門家に聞きました。
クレーム対応の現場や会社の飲み会、家族・友人間など、あらゆるところに存在する「文句を言う人」。
文句には、不満や苦情といったネガティブな内容が含まれるため、聞かされる側からすると気持ちのよいものではなく、「いつも文句ばかり言っている人と話すのは疲れる」「接客業をしていると、ただ文句を言いたいだけの人もいると感じる」という声もあります。
しかし、文句を言う人の中には、「文句を言わないと気が済まない」「正直、文句を言うこと自体がわりと好き」という人も一定数いるようです。文句を言いたがる人や、文句を言うのが好きな人の心理について、心理カウンセラーの小日向るり子さんに聞きました。
「防衛機制」というメカニズム
Q.一般的に、「文句を言いたい」と感じているときの心理とは、どのようなものでしょうか。
小日向さん「文句を言いたい心理は、精神医学者のフロイトが提唱した『防衛機制』という心理的メカニズムで解釈することができます。防衛機制には、『逃避』『同一化』『抑制』『退行』『反動形成』『投影』『昇華』などがあります。
例えば、クレーマーは『逃避(現状が苦しいため、他のものに心的エネルギーを注いで現状を回避すること)』、同意を求めてくるタイプの文句は『同一化(自分一人では不安なので、自分以外のものと自分が融合した一体感を持とうとすること)』、職場の人の文句ばかり言う人は、『投影(自分の欠点を正視することに耐えられないため、自分以外のものに責任を転嫁すること)』…といった防衛機制が働いている場合があります。
ただし、防衛機制には、『昇華』のように現実原則を承認しつつ、欲求を発散するものもあります。誰もが自我を安定させるために持っている心理なので、防衛機制自体が“悪”ということではありません」
Q.実際に文句を言うことで、言った人の心理状態にどのような変化が起こるのですか。
小日向さん「『文句は防衛である』と先述しましたが、意識としては、多くの人が文句を言うことによって『防衛できた』というより『スッキリした』と感じることが多いと思います。
なぜ『スッキリした』と感じるのかを掘り下げると、自分以外のものに責任を転嫁して心の負荷が軽くなったことによるものや、自分を正当化できたり、他者からの賛同が得られたりしたことによる安心感など、自己防衛が成功したことによって『心を守ることができた』という安堵(あんど)の心理から生じる感覚である、といえるのではないでしょうか」
Q.「いつも文句ばかり言っている人」「文句をただ言いたいだけの人」「文句を言うのが好きな人」がいるようですが、なぜ、そのような心理状態や考え方が形成されるのでしょうか。
小日向さん「防衛機制は、欲望を抑制するために常に働いており、その抑制をどのように発散させるかの方法は、無意識に選択されることが多いです。つまり、文句ばかり言っている人や、文句が好きだと開き直っている人は、抑制された欲望を発散する方法として、無意識に『文句』を選択していることが多いのです。
防衛機制にはネガティブなものだけでなく、ユーモアへの変換や有意義な社会活動への昇華といったポジティブなものもあるのですが、これらを選択するためには、物事をじっくり考えたり、道徳的な価値観を醸成したりすることが必要で、それらは面倒くさいことです。
そうした意味では、成育歴や環境の中で、忍耐力や深い思考力を鍛えることをしてこなかった人が、『文句が多い人』になりやすいといえるでしょう」
Q.文句を言うのが好きな人が身近にいると、「会話をするのが疲れる」と感じる人も多いようです。文句を聞かされることで、聞き手にはどのような影響があるのでしょうか。
小日向さん「文句は会話だけでなく文章でも伝えられますが、『言葉で聞かされる方が疲れる』という人は多いと思います。これには、言葉が持つ『文章と違って自分勝手に中断することができない』という性質以外に、『言葉=音である』ことが関係しています。
音は物の振動によって空気が揺れ動き、それが耳に伝わるものなので、“エネルギーを持つストレス(刺激)”なのです。エネルギーがポジティブなものであれば、やる気につながりますが、ネガティブなものばかりであれば、負荷となってしまうのは当然です」
Q.文句を言う人に対して、どのような接し方をするとよいですか。
小日向さん「文句を言う人は欲望を発散させたいわけですから、それを抑圧することは最もやってはいけないことです。関係性によっては、さらなる圧力で発散させようとする可能性があるので、軽く聞き流すのが一番です。
また、文章であれば、自分の判断で中断することができるので、聞き流すことができない場合は『それ、文章で送って』と伝え、受けるストレスを自分で調整する方法もあります」
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