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「涙もろい人」「泣かない人」の違いとは? 実はうつ病も関係 精神科医が教える“感情”のメカニズム

涙もろい人と泣かない人は何が違うのでしょうか。精神科医に聞きました。

映画やテレビドラマを見ているときに、泣いてしまう人と泣かない人の違いは?
映画やテレビドラマを見ているときに、泣いてしまう人と泣かない人の違いは?

 映画やテレビドラマを見ているときに、感動してつい泣いてしまう人もいれば、まったく泣かない人もいます。涙もろい人と泣かない人は何が違うのでしょうか。感動的な場面に遭遇してもまったく泣かない場合、病気の可能性はあるのでしょうか。ライトメンタルクリニック(東京都新宿区)理事長で精神科専門医、精神保健指定医の清水聖童さんに聞きました。

涙もろい人は「扁桃体」の活動が活発

Q.涙もろい人と泣かない人の違いについて、教えてください。例えば、映画やテレビドラマで感動的なシーンがあったときにすぐに泣いてしまう人もいればまったく泣かない人もいますが、両者は何が違うのでしょうか。

清水さん「映画やテレビドラマなどの感動的なシーンに対する反応には個人差があります。涙もろい人と泣かない人の違いは、主に次の要因が関係していると考えられます」

(1)神経生理学的な違い
涙もろい人は脳の部位のうち、感情をつかさどる「扁桃体(へんとうたい)」のほか、感情を制御する「前頭前野」の活動が活発である傾向にあります。扁桃体が強く反応すると感情的な刺激に対する感受性が高まり、涙を流しやすくなります。

一方、泣かない人は扁桃体の反応が抑制されやすかったり、前頭前野が強く働いたりして感情をコントロールしやすい側面があります。

(2)性格や気質の違い
心理学的に見ると、共感性が高い人ほど感動的なシーンに反応しやすいとされています。共感性が高い人は、他者の感情に深く感情移入し、物語の登場人物と自分を重ね合わせるため、泣きやすくなります。

一方、感情の起伏が少なく、論理的に物事を捉える傾向が強い人は、情動的な刺激に対しても冷静であり、泣くことが少ないと考えられます。

(3)過去の経験や文化的背景の違い
涙もろさには、個人の過去の経験や文化的要素も影響します。例えば、つらい経験をしてきた人は似たようなシチュエーションに直面すると、過去の感情が呼び起こされて涙を流しやすくなります。

また、文化的要因も重要です。民主的で個人主義的な国ほど泣くことが多いという研究がありますが、日本では集団主義的な文化があり、感情を抑えることが美徳とされ、泣きにくい可能性があります。

Q.では、感動的な場面や悲しい場面に遭遇してもまったく泣かない場合、精神的な病気の可能性はあるのでしょうか。

清水さん「映画やテレビドラマの感動的なシーンを見てもまったく泣かない人には、主に次の4つの可能性が考えられます」

(1)感情の抑制が強い
心理的に感情を抑制する傾向が強い人は、涙を流すことに抵抗を感じることがあります。特に、幼少期に「泣くのは恥ずかしい」「感情を見せるべきではない」といった価値観を植え付けられた場合、自然と泣かない習慣が身に付いていることがあります。

(2)失感情症(アレキシサイミア)
感情を適切に認識、表現するのが苦手な「失感情症(アレキシサイミア)」の人は、感動的な場面でも泣くことが難しい傾向にあります。このような人は、自分の感情を言葉にすることも難しいため、周囲から「冷たい人」と誤解されることもあります。

(3)精神疾患が関連
うつ病や双極性障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった精神疾患を抱えている場合や、前頭側頭型認知症、パーキンソン病などの神経変性疾患を抱えている場合、感情の起伏が乏しくなり、涙を流すことが難しくなることがあります。

特に、うつ病の場合は以前に比べて「喜怒哀楽を感じにくくなった」「涙が出なくなった」といった症状が見られることがあります。

(4)ホルモンバランスの影響
ストレスホルモンであるコルチゾールが過剰に分泌されると、感情のコントロールが難しくなることがあります。また、男性ホルモン(テストステロン)の分泌量が高い人は、一般的に涙を流しにくいとされています。

Q.涙もろい人ができるだけ人前で泣かないようにしたい場合、どうすればよいのでしょうか。対処法はありますか。

清水さん「涙もろい人が感情をコントロールするためには、次の方法が有効です」

(1)呼吸を整える
涙が出そうになったときは、深呼吸をして自律神経を整えることが有効です。特に、息を長く吐くことで副交感神経が優位になり、感情の高ぶりを抑えやすくなります。

(2)視点を変える、別の事を考える
例えば映画で感動的な場面に直面したとき、「これは映画の一部」「これは演出」といった客観的な視点を持つことで、感情の高まりを抑えることができます。「今日は何を食べようかな」など、感情的になりにくいことに思考を切り替えることも有効でしょう。

(3)涙を抑えるツボを押す
ツボの刺激は涙を抑えるのに効果的とされています。次のツボを刺激してみてください。

・手の甲、親指と人差し指の間のくぼみにあるツボ「合谷(ごうこく)」を親指で5秒ほど押す。

・鼻の下のツボ「人中(じんちゅう)」を5秒ほど強めに押す。

・小鼻の横、ほうれい線上のくぼみにあるツボ「迎香(げいこう)」を両手の人さし指で円を描くようにマッサージする。

・耳たぶを引っ張る。

(4)感情を書き出す習慣をつける
日記やメモを活用して、日常的に感情を言語化することで、感情のコントロールがしやすくなることがあります。

(5)意識的に涙を流す時間を作る
普段から意識的に泣く時間を設けることで、感情の発散がスムーズになり、人前での涙を抑えやすくなります。例えば、映画を観るときに「泣くための時間」として意識することで、普段の涙もろさが軽減される可能性があります。

(6)認知行動療法を活用する
心理療法の一つである認知行動療法(CBT)では、感情をコントロールするための思考法を学ぶことができます。

* * *

 以前よりも喜怒哀楽が少なくなった場合、うつ病や双極性障害などの精神疾患の可能性があるということです。感情が原因で日常生活に支障を来す場合は、精神科医や心理カウンセラーなどの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

(オトナンサー編集部)

【なるほど】「知らなかった!」 これが涙もろい人&泣かない人の“大きな違い”です(画像22枚)

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清水聖童(しみず・せいどう)

ライトメンタルクリニック理事長、精神科専門医、精神保健指定医

総合病院精神科、ナショナルセンター、精神科単科病院、クリニックなど、さまざまな医療現場で精神診療に関わる。精神疾患の早期発見、治療の重要性を重視し、受診しやすい環境と、従来の治療法にこだわらない幅広い医療を展開した「ライトメンタルクリニック」(東京都新宿区)を立ち上げる。予防医療の啓発に関わる情報発信を精力的に行う。ライトメンタルクリニック(https://light-clinic.com/)。

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