【いまさら聞けない法令用語】「告訴」と「告発」はどう違う? 弁護士が解説
ニュースや新聞でよく見聞きするものの、実はよく分かっていない法令関連用語について、弁護士に聞いてみました。

事件に関する報道で、しばしば聞かれる法令用語の一つに「告訴」があります。また、よく似た用語として「告発」という言葉が使われることもあります。この両者にはどんな意味と違いがあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
どちらも「捜査のきっかけの一つ」だが…
Q.まず、「告訴」という言葉の意味について教えてください。
佐藤さん「『告訴』とは、告訴ができると法律で定められた犯罪被害者などの『告訴権者』が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求めることです。
告訴権者としては、犯罪被害者の他、被害者の法定代理人(被害者が未成年者の場合の親など)が挙げられます(刑事訴訟法230条、231条1項)。また、被害者が死亡したときは、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹は、被害者の明示した意思に反しない限り、告訴をすることができます(刑事訴訟法231条2項)。その他、被害者の法定代理人が容疑者であるときなど、例外的なケースについても、誰が告訴することができるのか、刑事訴訟法で定められています。
名誉毀損(きそん)罪や器物損壊罪など一定の犯罪については、告訴がないと起訴することができません(親告罪)。被害者の意思を尊重すべき犯罪、被害が比較的軽微な犯罪などが親告罪とされています。親告罪の告訴は、原則、犯人を知った日から6カ月を経過するとできなくなります(刑事訴訟法235条)」
Q.次に、「告発」という言葉の意味について教えてください。
佐藤さん「『告発』とは、告訴権者“以外”の者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求めることです。告発は、犯罪があると思われるときは、誰でも行うことができます(刑事訴訟法239条1項)」
Q.つまり、「告訴」「告発」の違いとは何でしょうか。
佐藤さん「『告訴』も『告発』も、捜査のきっかけの一つです。告訴や告発がなされると、司法警察員は、関係する書類や証拠物を速やかに検察官へ送付する義務を負い(刑事訴訟法242条)、検察官は起訴または不起訴の処分結果を、告訴人や告発人に通知する義務を負うことになります(刑事訴訟法260条)。なお、不起訴処分の場合、検察官は、告訴人や告発人の請求があれば、不起訴にした理由を速やかに告げなければなりません(刑事訴訟法261条)。
両者の大きな違いは、先述したように、告訴は『告訴ができる』と法律で定められた人しかできず、告発は『誰でもできる』ところにあります。
なお、告訴や告発と似たものとして、『被害届』があります。被害届も、告訴や告発と同様、捜査のきっかけになりますが、被害届は『犯罪被害に遭った』という事実を申告するものに過ぎず、犯人の処罰を求める意思を含むとは限らない点で、告訴や告発と異なります」
Q.「告訴」と「告発」について、特徴的な過去の事例はありますか。
佐藤さん「現実には、告訴や告発をしたのになかなか受理してもらえないことがありますが、理論上、原則として受理する義務があると考えられています。裁判例としては、『いまだ犯罪事実と言い難いような事実の申告があったときは、告訴として取り扱わなければならないものではない』と判断した事例などがあります(東京高裁1981年5月20日判決)。
一般的には、告訴状の記載事実が不明確なもの、記載事実が特定されないもの、記載内容から犯罪が成立しないことが明白なもの、事件に公訴時効が成立しているものなどでない限り、告訴や告発を受理する義務があると考えるべきでしょう」
(オトナンサー編集部)
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