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「通知表」 実はなくてもいいって本当? 法的根拠の有無を弁護士に聞いてみた

小中学校の学期末に子どもたちへ渡される「通知表」。実は作る義務も子どもたちに渡す義務もないとの情報があります。事実でしょうか。

「通知表」実は法的根拠なし?
「通知表」実は法的根拠なし?

 小中学校の夏休みが近づいてきましたが、学期末に子どもたちへ渡されるのが「通知表」(「あゆみ」などの名称の学校も)です。楽しみにしている子もいれば、憂鬱(ゆううつ)に感じる子もいるでしょう。ただ、この「通知表」、実は作る義務も子どもたちに渡す義務もないとの情報があります。事実でしょうか。通知表の法的根拠の有無などについて、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

校長の裁量次第、実際にない学校も

Q.「通知表を作る義務はない」というのは事実でしょうか。

佐藤さん「事実です。『通知表』とは、子どもの学習指導の成果や状況、健康状況などを保護者に連絡し、保護者が子どもの学校生活の状況を知るための連絡簿ですが、法的根拠はありません。作成については、各学校の校長の裁量に委ねられているため、学校ごとに形式や内容もさまざまであり、『通知表』や『あゆみ』などの呼び方についても、学校によって異なります。

一方、通知表の基になる『指導要録』は、作成や保管が義務付けられた公的な書類です(学校教育法施行規則24条、28条)。指導要録は、子どもの学習および健康の状況を記録した書類の原本であり、教師が子どもの指導に役立てるために作成されます。また、指導要録は、子どもが転学(転校)や進学した場合に、転学先や進学先に写しを送ることが義務付けられており、外部に対して子どもの状況を証明する役割も担っています」

Q.実際に通知表を作っていない学校は、どれくらいあるのでしょうか。

佐藤さん「通知表を作っていない学校は、全国でもとても珍しいです。例えば、古くから通知表のない学校として有名なのが、長野県伊那市立伊那小学校です。その他、2020年度から通知表を廃止した、神奈川県茅ケ崎市立香川小学校などがあります」

Q.通知表を作らない学校では、子どもたちの「評価」や「成果」をどう保護者に伝えるのでしょうか。

佐藤さん「通知表を作らない学校では、提出物を小まめに返して保護者に学習状況を知らせたり、教師が子どもの成長に気付くたびに、連絡帳などにメッセージを書いて保護者に伝えたり、定期的な面談の際に普段の様子をより丁寧に話したりしているようです。

通知表を作らない学校の場合、子どもの学習などの『成果』をテストの点数といった数字で評価するのではなく、さまざまな活動の中で、変化や成長を見いだすことによって、評価しているといえるでしょう」

Q.義務ではないのに、通知表を作り、渡す学校が圧倒的に多いのは、なぜでしょうか。

佐藤さん「通知表は、学校と家庭とを結びつける役割を担っています。通知表によって、保護者は子どもの学習状況を、ある程度客観的に知ることができますし、子ども自身も、分かりやすい形で、自分の積み重ねてきた努力の成果や抱えている課題を知ることができます。通知表が、子どものモチベーションの向上や学習意欲の向上につながることも期待されています」
 
Q.通知表について、佐藤さんの考えをお聞かせください。

佐藤さん「通知表を作らない学校は、子ども一人一人の個性をより尊重し、その子自身の成長に重きを置いて、さまざまな視点から評価したいのだろうと思います。そうした姿勢は、子どもの成長にとって、とても大切でしょう。

しかし、通知表を通じても、子ども自身の成長を見て、多面的に評価することは可能だと思います。かつては、集団との比較の中で評価する『相対評価』が行われてきましたが、学習指導要領が変わる中で、今では、一人一人がどの程度目標を達成できているかを評価する『絶対評価』を中心とする評価がなされています。また、通知表の総合所見欄などには、教師が一人一人の努力を多面的に評価したメッセージを書くことができます。

子どもはいずれ、自ら進路を決め、進学したり就職したりします。将来の生き方や進路を考える際、自分自身の得手、不得手を分析することが大切になりますが、学校からの通知表は、そうした自己分析にも役立つように思います。どのような教育が正しいのか、難しい問題ですが、個人的には、通知表が果たす役割は小さいものではないと思います」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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