ある塾の貼り紙「センター当日、塾に忘れ物をしていたら窓を割ってよい」が話題に、割ったら法的には?
何かと話題のセンター試験ですがその直前、「試験当日に塾に忘れ物をしてどうしようもなくなった場合、窓ガラスを割ってもよい」との投稿がSNS上で話題となりました。仮に生徒がガラスを割った場合、法的責任を問われるのでしょうか。
ムーミンに大学教授の居眠り…と、2018年のセンター試験は終了後も大きなニュースとなっていますが、SNS上では試験前、とある塾が行った「貼り紙」に関する投稿が話題となりました。その貼り紙は、センター試験当日、塾に忘れ物があることに気付いた場合の対応を生徒に伝えるもの。当日朝は講師が塾に不在である旨を明記し「どうしようもなくなった場合のみ、駐輪場のところの窓ガラスをブチ割る事を許可します」「当然弁償はしてもらいますが、センター試験を棒に振るよりましです」「ガラスをぶち破ると、警備、警官がすっ飛んでくるので、3分以内に出ていくこと。捕まるようではダメ、センター試験に遅刻します」としています。
SNS上では「笑った」「面白い塾ですね!」「ブラックユーモア的配慮」「もし本当に割っちゃったらどうなるんだろう」など、さまざまな声が上がっていますが、仮に塾生が窓ガラスを実際に割ってしまった場合、どのような法的問題が起こりうるのでしょうか。オトナンサー編集部では、グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。
建物を所有しているのが塾かどうか
Q.塾生が本当に窓ガラスを割った場合、塾生には何らかの法的ペナルティーが科されうるのでしょうか。
刈谷さん「塾生に民事上あるいは刑事上のペナルティーが科されるかどうかは、塾のある建物の所有者が誰なのかによって変わります。仮に、塾自体が建物を所有している場合、『所有者の承諾をもって窓ガラスを壊した』ということになるため器物損壊罪(刑法261条)といった刑事上のペナルティーはありません。一方で、塾は『当然弁償はしてもらいます』と張り紙を出しているわけですから、割った窓ガラス代を弁償させるという民事上のペナルティー(民法709条)は予定していると読めます。逆に、塾は建物を借りているだけでほかにオーナーがいる場合は、塾生はこのような刑事上、民事上のペナルティーのどちらも科される可能性があります」
Q.塾生が窓ガラスを割り、警備会社経由で警察が駆けつけてしまった場合、塾生や塾には何らかの法的ペナルティーが科されますか。
刈谷さん「建物の所有者との関係については既に触れましたが、警備会社が介入をすればさらに問題が発生します。あくまでも、張り紙を見た生徒がいたずらで窓ガラスを割った場合の話ですが、通常、警備会社は塾や所有者との間で、有事の際に防犯上のサービスを提供する契約を締結しているため、塾生が窓ガラスを壊したことにより警備会社が意味のないサービスを提供させられた場合、塾生は『他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した』として、軽犯罪法1条31号違反、あるいは偽計業務妨害罪(刑法234条)が科される可能性があります。また、警備会社が意味のないサービスを提供したことによって余計な費用負担をした場合は、塾生に対し、その金額について損害賠償請求をすることも考えられます。さらに、塾は共同不法行為(民法719条)を理由に、民事上の責任を負うことがないとも言えないでしょう。非常事態ですから、緊急避難的にやってはいけないことをあらかじめ許容する塾の態度それ自体は称賛すべきものですが、それによって発生しうる、民事上、刑事上の責任についてもしっかり理解し、周囲に迷惑がかからないように最大限配慮することが求められます」
(オトナンサー編集部)
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