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不誠実では? 疑惑の人物の「捜査中なので、お答えできない」、信じていい?

疑惑のある政治家などが報道陣から厳しい質問を受けたとき、「捜査中なので、お答えできない」を連発する光景はよく見ますが、本当に答えられないのでしょうか。弁護士に聞きました。

木下富美子被告(2021年11月、時事)
木下富美子被告(2021年11月、時事)

 11月22日に東京都議会議員を辞職した木下富美子被告(道路交通法違反で起訴)が議員在職中の同9日に登庁した際、報道陣の質問に「捜査中なので、お答えできない」を連発しました。今回に限らず、疑惑のある政治家などが報道陣から厳しい質問を受けたとき、「捜査中なので、お答えできない」を連発する光景はよく見ますが、「不誠実に見えてしまうのに、なぜ、『答えられない』を連発するのだろう」と感じるときがあります。

 疑惑のある政治家が連発する「捜査中なので、お答えできない」は本当なのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

リスクを避けるための手段

Q.疑惑のある政治家が報道陣に連発する「捜査中なので、お答えできない」は本当なのでしょうか。

佐藤さん「本当です。捜査中の事柄について発言すると、罪を犯した疑いをかけられている人の将来の主張・立証が制約されたり、被害者感情を逆なでしたりする可能性があります。また、捜査機関に補充捜査の機会を与えることにつながるなど、不利益となる事態が想定されます。

加えて、報道陣の前で発言した内容は生放送を除き、全てそのまま報じられるわけではありません。報道機関によって編集されてから報じられるため、罪を犯した疑いをかけられている人の真意に反した形で報道され、裁判官や裁判員に偏見を抱かせるリスクもあります。そもそも、捜査中の事柄に関する情報は不確実なものです。

不確かな情報の公表が裁判外で裁判官や裁判員に影響を与えることがあれば、公平な裁判の実現が難しくなってしまいます。捜査中の事柄について、容疑者や疑惑のある人物が発言することを禁じる法律はありませんので、発言しても法的に不適切ではありませんが、こうした事情から、捜査中の事柄については発言を控えるのが一般的な対応となっています。

むしろ、弁護士は容疑者、被告の利益や公正な裁判の実現を考え、『捜査中のことは答えない方がいい』とアドバイスをするのが一般的です」

Q.「捜査中は発言を控えるのが一般的」とのことですが、捜査中でも発言した方がよい場合はあるのですか。

佐藤さん「例えば、『捜査中にもかかわらず、捜査機関が有罪につながりそうな証拠の一部を報道機関に漏らし、報道機関が犯人であると決めつけるような報道を始めてしまった。罪を犯した疑いをかけられている人は無罪を主張しており、早急に自分が犯人ではない証拠などを示し、誤解を解きたい』という場合も考えられないわけではありません。

こうしたケースでは、捜査中であったとしても、罪を犯した疑いをかけられている人から、何らかの発信がある可能性はあるでしょう。もちろん、容疑者側から発信する場合も、先述のリスクを十分考慮し、慎重に行う必要があります」

Q.木下富美子被告は議員在職中、「捜査中なので、お答えできない」を連発しました。彼女の場合、本当に捜査中で答えられなかったのでしょうか。

佐藤さん「一般的には、先述したような理由で、捜査中の事柄については今後の裁判への影響なども考えて答えないことが多いです。また、場合によって、捜査への影響を考え、捜査機関から他言を控えるよう求められていることもあります。

しかし、『捜査中なので、お答えできない』と発言をした時点では、木下被告は都議の立場にあったため、自らの意思で、議員として、都民に一定の説明をする選択肢もあり得たように思います。ご本人がなぜ、『捜査中なので、お答えできない』と言ったのかは分かりませんが、代理人弁護士の意見を踏まえ、最終的にはご自身で判断されたのではないかと思います」

Q.捜査が行われているとき、捜査中の事柄を話すことのリスクを知らない一般人は多いと思います。そのため、「捜査中で、お答えできない」のが事実であっても、その通りに発言をすればするほど、かえってネガティブに見られるわけですが、現状では「捜査中でお答えできない」という表現で答えるしかないのでしょうか。

佐藤さん「『捜査中なので、お答えできない』という発言は場合によっては、捜査中であることを口実に言い逃れをしようとしていると受け取られることがあるでしょう。しかし、捜査期間中に不用意に発言すれば、さまざまなリスクがある以上、『お答えできない』と答えるしかないように思います。世間に対して説明が必要な場合は捜査終了後、一定の結論が出てから、誠意をもって説明を尽くすことが大切でしょう」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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