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ベビーカーと間違えないで! 障害児らのための「子ども用車いす」、鉄道会社や団体が啓発活動

「子ども用車いす」の認知度を向上させようと、啓発ポスターの掲示や専用マークの配布など、さまざまな取り組みが始まっています。

つくばエクスプレスの駅構内に掲示している啓発ポスター(首都圏新都市鉄道提供)
つくばエクスプレスの駅構内に掲示している啓発ポスター(首都圏新都市鉄道提供)

 障害のある子どもたちなどが使用する「子ども用車いす」が、外観が似ている「ベビーカー」と誤認され、混雑中の電車内で「なぜ畳まないのか?」と非難されるなど、介助者である保護者がつらい思いをするケースが頻発しています。こうした状況を改善しようと、啓発ポスターを張り出したり、専用マークを作ったりする活動が各地で始まっています。取り組みを取材しました。

つくばEXの全駅に啓発ポスター

 先日、あるポスターがSNS上で話題になりました。「子ども用車いす」のイラストを載せて「ご存知ですか? これはベビーカーではありません」「小児用の介助型車いす(子ども用車いす)です」などと説明するポスターです。ツイッターのコメントでは「知らなかった。『子ども用車いす』はどういうものかという知識は大切。広まってほしい」といった好意的な声が上がっています。

 話題になったのは、東京・秋葉原と茨城県つくば市を結ぶ「つくばエクスプレス」全20駅で2018年7月9日から提示が始まった啓発ポスターです。運行する首都圏新都市鉄道(東京都千代田区)が制作しました。

 きっかけは、国土交通省が4月13日に出した「公共交通機関等における『子供用車椅子』の扱いについて」という通知です。通知では、「子ども用車いす」がその認知度の低さから、頻繁にベビーカーと誤認されることを指摘。「子ども用車いす」は折り畳むことができず、使っている子どもも降りて歩くことが困難なのに、電車に乗る際にスロープ利用を申し出ても「ベビーカーでは利用できない」と断られるなど、認知度の低さに伴うトラブルの発生に言及しています。

 首都圏新都市鉄道の広報担当者によると、通知をきっかけに何かできないかと検討し、ポスターでの啓発を発案したそうです。ポスターは今後数カ月間、全駅の駅構内に掲示し続ける予定です。

認知度は徐々に向上

マークのキーホルダーが付いた「子ども用車いす」(一般社団法人「mina family」提供)
マークのキーホルダーが付いた「子ども用車いす」(一般社団法人「mina family」提供)

 病気や障害のある子どもと、その家族のための啓発活動・商品開発をしている一般社団法人「mina family」(ミナファミリー、大阪市中央区)は2016年4月から、「子ども用車いす」と分かるマークの制作と配布など、認知度向上を目指した啓発プロジェクトを展開しています。

 中心になっているのは、代表理事の本田香織さんです。本田さんは、長女が3歳の時に重度心身障害の認定を受け、介助する中で、当事者にしか分からないさまざまな問題を知り、啓発活動を始めたそうです。本田さんに活動の経緯などを聞きました。

Q.国土交通省の通知によると、「子ども用車いす」を必要とする子どもたちなど肢体不自由児は全国で約7万7000人いるそうです。

本田さん「実態に近いと思いますが、他にてんかんや自閉症、パニック症状があるお子さんなど、身体障害には該当しないものの、状況によって車いすが必要になる人もいます」

Q.「こども車いすマーク」を考案したきっかけは。

本田さん「『病院に来る途中で悲しい思いをした』と、泣いているお母さんを病院で見たことがきっかけです。当時、私の長女はベビーカーを利用していましたが、その後、車いすを使うようになって、お母さんたちが話していたことを私も体験しました。マークがなくても良い社会になるのが理想ですが、現状ではマークを浸透させることが一番効率的な啓発方法だと考えています」

Q.マークはどれくらいの大きさですか。

本田さん「キーホルダーに加工して販売しているものは、大小2種類でそれぞれ直径15センチと9センチです。マークのデータは、団体のウェブサイトから無料でダウンロードでき、個人利用は自由です。現在までにキーホルダーだけで約800点を販売しています」

Q.啓発活動開始時の「子ども用車いす」の認知度は、どれくらいだったのでしょうか。

本田さん「低かったと思います。車いすの技師の人が『おそらく30年以上前から、この問題を多くのお母さんから聞いてきた。これだけ時間がたって、まだ同じ問題で泣いているお母さんがいることにがくぜんとする』と話しておられました」

Q.現在の認知度は。

本田さん「メディアでも多く取り上げられ、向上してきていると感じます。例えば、公共交通機関や施設でマークを見た職員の人が、すんなり『車いすですね』とおっしゃってくださったり、『このタイプの車いすは誤認されて、つらい思いをすることもあるんじゃないですか』と優しい言葉をかけていただいたりするようになりました。ただし、すべての利用者にマークが普及しているわけではありません」

Q.マークが付いていない場合、ベビーカーとの違いを見分ける方法はありますか。

本田さん「ほとんど不可能だと思います。最近は海外製のおしゃれな車いすが多く輸入され、国内でも、デザイン性の高い車いすが増えています。『もっと車いすらしい外観にすればよい』という意見もありますが、構造的にどうしてもベビーカーに似たものになるのです。高齢者が利用していると車いすにしか見えないようですが、小さな子どもが使っていると、皆さん無意識に『ベビーカーだ』と判断されるようです」

Q.マークについて、介助者である親たちの反応は。

本田さん「『マークを付けてから誤解されることが減り、出かけるのが少し楽になった』『マークがあると気持ちが楽になり、守られているような気持ちになる』といった声があり、うれしかったです。車いす利用者もそうでない人も、お互いに譲り合って公共の場を利用できるようになればと思います」

(報道チーム)

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