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「中途採用しても人がすぐ辞めていく」会社は何が問題なのか? 能力や志向で選ぶ“落とし穴”

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

中途採用してもすぐ辞めるのはなぜ?
中途採用してもすぐ辞めるのはなぜ?

 少子化などを背景とした人手不足が続いています。また今後も続いていくと思われます。コロナ禍で経済が悪化しているにもかかわらず、求人倍率は相変わらず高止まりしており、企業の採用担当者は大変な苦労をして人材獲得活動をしています。しかし、いくら社員を中途採用などで補充しても、次々に社員が辞めていき、担当者が苦労している会社は多々あります。こんな状況を見ると人事担当者は採用に力を入れる前に、離職を防ぐことにも力を入れるべきなのかもしれません。「中途採用を頑張っているのに、次々と人が辞めていく会社」というのは一体何が問題なのでしょうか。

人は「嫌な上司の下を去る」

「待遇への不満」「仕事の意義や面白み」「ほかにやりたい仕事ができた」などなど…。退職理由は人それぞれです。しかし、各種の調査や筆者が行っている人事コンサルティングの現場での経験から見ると、人が会社を辞める理由で最も多いものは、上司や同僚との間の「人間関係」です。「人は会社を辞めるのではない。嫌な上司の下を去るのだ」という言葉もあります。

「何をするか」はもちろんとても大事なことではありますが、「誰とするか」がより重要だという人の方が多いのかもしれません。もしそうであれば、人の相性を見て、配属・配置を最適化することで退職を予防できるはずです。

 実際、性格適性検査などを全社に導入して、性格の相性を可視化して、人材配置を相性の観点から最適化すると、退職率が下がることが多くあります。考えてみれば、退職率を下げるためにと、上司のマネジメント力を向上させたり、社員同士のコミュニケーションを活発化させたりしても、中長期的にはもちろんよいことなのですが、なかなかすぐに効果は出ません。

 しかし、個々人は何も変わりなく、今まで通り自然に過ごしていても、相性が良い人同士で仕事をすれば、すぐ快適な状態になるわけですから、この方法は極端に言えば、「明日から」でも効果が出るわけです。

中途採用は「能力」や「志向」に目が向きがち

これは中途採用でも同じことです。いや、中途採用こそ気を付けるべきことであり、しかも簡単にできるはずです。総合職で一括して採用する学生の新卒採用と違い、中途採用は「配属部署」「職種」「上司」「同僚」などがあらかじめ決まっている状態で募集されることがほとんどです。ですから、中途採用の際に入社後の「性格の相性」を検討することはそれほど難しいことではないはずです。

 ところが中途採用では、キャリアや経験、資格、スキルなどが分かりやすく見えるために、どうしてもそこに視点が行きます。また、中途採用は候補者が何らか「やりたいこと」が強くあって応募してくることも多く、キャリア志向などにも目が向きがちです。もちろんそれらは問題ではないのですが、結果として、「性格の相性」より「能力」や「志向」で採用してしまうことがあるのです。

 ただ、普通に考えれば、中途採用者を欲しがる現場は「能力」を重視することでしょう。また、候補者は自分の「志向」を重視して行き先を決めることでしょう。そのため、「とにかく『性格』の相性を」と採用担当者が勝手に動いても、現場から「能力が理想に達していない」とクレームがあったり、候補者に「志向と違う配属になるなら」と辞退されたりするかもしれず、簡単にはいきません。

 現場に性格の相性の重要性を説き、候補者には、表面的には違って見える配属であっても、見方を変えれば元々の志向のコアな部分と実は合致している配属である(事実そうでなくてはなりませんが)ことを一生懸命説明しなければなりません。ここに難しさがあります。

採用で最もNGなのはミスマッチ

 しかし、「採用で最も行っていけないこと」は、やはり「ミスマッチ」なのです。実務をやっている人にとっては酷な言い方ですが、「いい人を逃してでも、ミスマッチを起こしてはいけない」が採用の基本だと思います。ミスマッチな人を採用してしまうと、個人にとっても会社にとっても大きなマイナスになります(もっと言うと、個人の方が人生への影響は大きいかもしれません)。

 ですから、やはり現場も候補者も(表面的には)望んでいない「性格の相性」の重要性を、抵抗は大きいでしょうが、人事採用担当者が説いていかなければならないのです。

 人がちゃんと定着すれば、無理をして穴埋めの採用をしなくてもよくなりますし、じっくりと時間をかけて適した人を探すことができます。また、人があまり入れ替わらなければ、社員同士の相互理解もやりやすくなります。そうすれば、組織の雰囲気はどんどんよくなっていき、新しく入ってきた人がさらに定着しやすい環境になっていくことでしょう。この好循環を生み出すためにも、辛抱強く、「能力」「志向」とともに「性格」もマッチする人を探して、妥協せずに採用をしていくことが必要なのです。

(人材研究所代表 曽和利光)

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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