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“粉”じゃないけど「歯磨き粉」、なぜ言われ続ける? 粉が激減した理由は?

「歯磨き粉」と呼ばれることが多い歯磨き剤は現在、ペースト状のものが中心です。粉末タイプが激減した理由と、いまだに「歯磨き粉」と呼ぶ人が多い理由を取材しました。

薄いピンク色の粉の「獅子印ライオン歯磨」。明治時代に発売された(ライオン提供)
薄いピンク色の粉の「獅子印ライオン歯磨」。明治時代に発売された(ライオン提供)

 6月4日から10日は「歯と口の健康週間」(厚生労働省など主催)です。虫歯や歯周病予防の基本は毎日の歯磨きですが、その歯磨きに使う「歯磨き剤」のことを皆さんは何と呼んでいるでしょうか。「歯磨き粉」と呼ぶ人も多いと思いますが、現在の歯磨き剤はペースト状のものが中心で、粉末状の「歯磨き粉」を使ったことがある人は少ないと思います。

 粉末の歯磨き粉はなぜ、激減したのでしょうか。激減したのになぜ、いまだに「歯磨き粉」と呼ぶ人が多いのでしょうか。業界団体とメーカーに聞きました。

使い勝手や衛生面に難

 日本歯磨工業会(東京都中央区)のホームページによると、2020年度の歯磨き剤の出荷構成比(金額ベース)は、練り歯磨きが72.6%と多くを占め、液体歯磨き剤と洗口液が合わせて27.2%、「歯磨き粉」はその他のものと合わせて、わずか0.2%です。

 江戸時代の文献にも載っていたという歯磨き粉。明治時代に練り歯磨きが登場するまでは主流だったようですが、どういう変遷をたどったのでしょうか。明治時代から、歯磨き剤を製造販売しているライオン(東京都墨田区)の広報担当者に聞きました。

Q.ライオン製の歯磨き剤の歴史を教えてください。

担当者「ライオンの前身、小林富次郎商店が1896(明治29)年、ハミガキ(歯磨き剤)を製造販売したのが始まりです。明治時代は粉末状のものが中心で、一部、練り歯磨きがある程度でした。明治時代末期の1911年、チューブ入りの練り歯磨きを発売。戦後はチューブ入りペースト状のものが定着しました」

Q.歯磨き剤は「歯磨き粉」と呼ばれることが多いのですが、かつては業界全体として、粉末タイプが主流だったのでしょうか。

担当者「明治時代から戦後、1950(昭和25)年ごろまでは粉末タイプが主流でした。その後は徐々にチューブ入りの練り歯磨きの需要が高まり、1958年には金額ベースで市場の5割を超えました」

Q.なぜ、粉末が減って、ペースト状のものが主流になったのでしょうか。

担当者「粉タイプの歯磨き剤は使用時に飛び散ってしまうという問題がありました。この問題を解決するため、改良されたのが練り歯磨きです。当初の練り歯磨きは『固練り』といって、陶器や缶などの容器に入っていました。チューブ入りのペースト状歯磨き剤は1911年にライオンが国産で初めて発売しました。使いやすいことが受け入れられ、現在ではチューブ入りの製品が主流になっています」

Q.粉末タイプの歯磨き剤はライオンでは現在、販売していますか。

担当者「現在は粉タイプは販売していません。喫煙者を対象にした『タバコライオン』が最後の粉タイプ(正式には湿り気のある『潤製』の製品)でしたが、2016年4月をもって、製造を終了しました」

Q.歯磨き剤のことをライオンでは何と呼んでいますか。「歯磨き粉」と呼ばない理由を教えてください。

担当者「かつては漢字表記の『歯磨』としていた時代がありましたが、現在、社内では片仮名表記の『ハミガキ』に統一しています。当社は現在、ペースト状やジェル状など、さまざまな製品を扱っているため、それらを包括する名称として『ハミガキ』としています」

 続いて、サンスターにも聞きました。

Q.歯磨き剤は「歯磨き粉」と呼ばれることが多いのですが、サンスターで粉末タイプの歯磨き剤は現在、販売していますか。

担当者「以前は販売していましたが、現在は販売していません。市場全体でも、練りハミガキが主流になる前は粉のハミガキが主流でした」

Q.なぜ、粉末でなく、ペースト状のものが主流になったのでしょうか。ペーストタイプと、それに次ぐ売り上げの液体タイプのメリットも教えてください。

担当者「粉は歯ブラシに乗せにくく、容器に直接、歯ブラシを入れて付けていたため、衛生的ではありませんでした。練りハミガキはチューブに入れることができるので、絞り出して、歯ブラシ上に乗せることが可能になりました。また、液体タイプは口の中の隅々まで薬剤が届きやすい点が利点といえるでしょう」

Q.現在、歯磨き剤のことをサンスターでは何と呼んでいますか。「歯磨き粉」と呼ばない理由を教えてください。

担当者「『ハミガキ』と呼んでいます。粉ではない形状のものが主流なので、歯磨き粉とは呼んでいません」

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