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火葬場が「撮影禁止」であるのはなぜか

職員への配慮も

 もう一つは火葬場職員への配慮です。火葬場の職員は歴史的に見て、差別されてきたと言われています。「言われている」としか言いようがないのは「結婚を反対された」「町内会の行事に参加させてもらえなかった」といった話を伝聞で知ることはあっても、直接、筆者が確認できた経験はないからです。

 筆者の家業である葬祭業も職業差別をされていたといわれることがあります。しかし、「そういう差別があった」と決め付ける人もいるものの、実際には「ありがとう」とお礼を言われ、丁重に扱ってもらえることの方が昔から多いです。火葬場の職員さんに対しても「ありがたいね」と言っている人ばかりで、差別的なことがあったのかといえば、確信を持ち切れないというのが筆者の素直な感想です。

 とはいえ、「過去に差別的な言動をされて、火葬場で働いている人のプライバシーを守るために撮影禁止となった」という説があるのは事実です。

 もう一つの説もあります。火葬場は構造上、熱い空気がこもらないように天井が高くなっています。天窓も照明もありますが、天井が高いためにどうしても照明から距離があり、昔は少し薄暗い場所でした。

 そんな中で写真撮影をすれば、シャッタースピードは落ち、ブレや影、多重露光なども起きやすくなって、いわゆる「心霊写真」と呼ばれるものができかねません。屋外から土足で入ってくる環境でもありますし、ほこりによるピントずれが起きたり、糸くずがピントずれで入ってしまったりすることも「心霊写真のようなもの」が撮れてしまう一因となり得ます。

 そして、亡くなった人を弔う火葬場で撮影した写真であれば、ただ撮影に失敗しただけの写真でも「心霊写真」と呼べるような条件がそろってしまうことになります。もし、あなたが火葬場の職員だとしたら、自分の働いている場所を「心霊スポット」と言われたいでしょうか。

 火葬の仕事とは、そのままでは腐敗してしまう亡くなった人の体を遺族からお預かりし、炎でお骨にして、遺族に返す仕事です。本来ならば、家族や身内が自身の手で行わなければいけない火葬を現在では近代的な施設で、専門職の人に任せられるようになりました。とてもありがたいことだと思います。そんな中で「あの火葬場は幽霊が出る」と騒がれてしまえば、仕事がしづらくなります。

 こうした理由から、「火葬場での撮影は不可」が一般的になったというのも一つの説です。

 一方で、YouTubeなどの動画サイトでは、火葬場で撮影したと思われる動画が公開されていることがあります。地方の火葬場では、炉が少なくて、遺族同士が鉢合わせせずに利用できた場合や、1日に1件しか火葬がない場合などは撮影を認めているケースもあるのです。

 火葬や葬儀は地域文化であり、地域ごとの事情によって異なるルールもあるので、自身の知っている知識だけでは正誤について言い切れない部分があります。火葬場の運用も文化の多様性の一部なので、もし、自分の住む地域の火葬のことが気になったら、地域の葬儀業者や、火葬場を利用したときに職員さんに聞いてみてほしいです。現場のプロとコミュニケーションを取ることが、葬儀文化に対する理解への第一歩になると思っています。

(佐藤葬祭社長 佐藤信顕)

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佐藤信顕(さとう・のぶあき)

葬祭ディレクター1級・葬祭ディレクター試験官・佐藤葬祭代表取締役・日本一の葬祭系YouTuber

1976年、東京都世田谷区で70年余り続く葬儀店に生まれる。大学在学中、父親が腎不全で倒れ療養となり、家業を継ぐために中退。20歳で3代目となり、以後、葬儀現場で苦労をしながら仕事を教わり、現在、「天職に恵まれ、仕事も趣味も葬式」に至る。年間200~250件の葬儀を執り行い、テレビや週刊誌の取材多数。YouTubeチャンネル「葬儀葬式ch」(https://www.youtube.com/channel/UCuLJbkrnVw6_a35M0rk8Emw)。

コメント

2件のコメント

  1. 北海道なので地域差はありますが
    火葬場では撮りませんが通夜のあと棺の前で集合写真を撮影しますね
    香典返しというのもありませんね
    北海道出てから違いにびっくりしました

  2. そもそも論として、ほとんどの宗教・宗派ではいわゆる聖域とされるところでの写真撮影は禁止されていますが。これはあくまでも他の方に迷惑がかかるとか、仏像などを文化財としてみた場合、強い光を当てるなどした場合に損傷や劣化が発生または進行するといったこと以外にも、宗教としての神仏に対する敬意としての撮影禁止があります。葬儀も、それがある意味宗教行為と切り離すことができない以上、撮影禁止は当然と理解しています。