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ゲームにタブレット学習…子どもの「近視」が増えている? 原因や予防法解説

子どもがデジタルデバイスに接する時間が増える中、その視力低下を心配する声が多く聞かれます。実際、子どもの「近視」は増えているのでしょうか。

子どもの近視が増えている?
子どもの近視が増えている?

 動画やゲームなどの娯楽だけでなく、タブレット学習の機会も増えるなど、日常の中で子どもがデジタルデバイスに接する時間は増加傾向にあるといわれています。そんな中、親にとって気掛かりなのが子どもの「視力」です。親の中には「小学校に入学してから視力が落ちたみたい」「年々、わが子の近視が進み、日常的に眼鏡を掛けている」などと、子どもの視力低下を心配する声も多く聞かれます。

 ネット上では「近視になる子とならない子の違いは何だろう」「子どもの近視は大人より進行が早いって本当?」「スマホを触る時間の長さもやっぱり関係あるのかな」など、疑問の声も上がっています。近視の低年齢化やデジタルデバイスに触れる時間との関係性について、かわな眼科(千葉県松戸市)の川名啓介院長に聞きました。

「屈折性近視」と「軸性近視」

Q.そもそも、「近視」とは何でしょうか。

川名さん「近視とは近くが見えやすく、遠くが見えにくい状態のことで、一般的に“目が悪い”とされている状態を指します。近視は、遠くからの光が目玉の奥にある『網膜』という神経の膜より手前にピントが合う状態です。ちなみに、目がよい人(正視)は、遠くからの光が目の網膜にぴったりピントが合うので遠くがよく見え、40歳以下の人は近くもよく見えます。

近視は大きく『屈折性近視』『軸性近視』に分けられます。屈折性近視とは、目のピントを合わせる機能の過緊張によるもの、軸性近視とは、目玉が奥行き方向に伸びることによるものです。前者は目を休ませたり、緊張をほぐす目薬を使ったりすることで回復することがあります。後者は物理的にピントの合う位置が変わるため、眼鏡やコンタクトレンズによる矯正をしないと遠くがはっきり見えない状態です。反対に近くのものははっきり見えます」

Q.近視の原因は何ですか。

川名さん「近視の原因には遺伝的要素と環境要素があります。一般的に、アジア人は欧米人より近視が多く、また、両親が近視の人は近視になりやすいという報告があります。環境要素では、近くをよく見る人、外での活動時間が短い人などが近視になりやすいといわれています」

Q.「近視が低年齢化している(子どもの近視が増加している)」というのは事実でしょうか。

川名さん「事実です。文部科学省『学校保健統計調査』によると、裸眼視力1.0未満の子どもの割合が小学校では1989年に約20%だったのに対し、2019年には約35%に増加しています。中学校、高校になるにつれて、さらに多くの子どもの裸眼視力が低下する傾向が見られます。平均的には、眼鏡を初めて掛ける年齢は7~12歳くらいが多いと思われます。

ちなみに、今年、アメリカの医学雑誌『JAMA Ophthalmol』に掲載された中国の報告によると、6~8歳の近視の割合が2020年は2019年より増えたといわれています。これは新型コロナウイルス感染症の増加によるロックダウン(都市封鎖)で、室内で生活する時間が増え、スマホやタブレットの使用時間が増えたためと推測されています。長時間近くのものを見ることは近視の悪化を招く原因と考えられるので、スマホやタブレットの長時間使用によっても近視が進みやすくなるでしょう」

Q.近視になりやすいとされる子どもの特徴はありますか。

川名さん「子どもの場合においても、先述の遺伝的要素と環境要素の両方が考えられます。両親とも近視の子どもは、片方の親が近視の場合よりも近視になりやすいといわれています。都市部で生活したり、日光に当たる時間が短かったりすることでも進行しやすいです。パソコンよりもスマホの方が見る距離が近いので、スマホをよく使う子どもは近視が進みやすいでしょう。なお、性別による差は特にありません」

Q.子どもの近視は進行が早いというのは事実でしょうか。

川名さん「早いと思います。6歳くらいの子どもの場合、通常は近視がほとんどないか、やや遠視くらいが正常です。子どもの体は大人と異なりどんどん成長します。その際、目玉も奥行き方向に大きくなるので近視が進みやすいのです。

また、『眼鏡を掛け始めると近視が進みやすい』といわれますが、これは感じ方の問題です。実際は、初めての眼鏡は度数の弱いものが多く、度数が弱いと少しの変化で視力に影響が出るため、子どもが眼鏡を掛け始めると大人に比べて、『近視が早く進む』と感じられるのです。最近の研究では、ピントがぴったり合った眼鏡の方が近視の進行が遅いと報告されています」

Q.近視の進行を早める日常生活上のNG行為はありますか。

川名さん「やはり、長時間近くを見ること、また、野外で過ごす時間が短いことです。読書や勉強をするときは適切な照明の下、よい姿勢で30センチ以上離して行いましょう。1日2時間以上、外で活動することで近視の進行を遅らせたという報告もあります」

Q.親や周囲の大人が子どもの近視や視力低下に気付くためのサインやポイントはありますか。

川名さん「幼い子どもの場合、自分で視力低下に気付くのは難しいです。通常は両目で見ているため、片目の視力だけ低下しても日常生活にはほとんど問題がないからです。ただし、かなり近づいてテレビを見たり、目を細めて物を見たりする場合、視力低下が疑われます。子どもに好きなテレビ番組を見せた状態で片目ずつ隠してみて、極端に片方だけ嫌がるようであれば、そちら側の目の視力が低下していると推測できます。

なお、3歳児検診などでも視力はチェックしますが、気になる場合は眼科で相談するとよいでしょう。3歳半くらいになると、おおまかな視力検査が可能となります」

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川名啓介(かわな・けいすけ)

医師(眼科)

医療法人社団かわな眼科院長・理事長。日本眼科学会認定眼科専門医、医学博士。1999年、筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院、日製日立総合病院、総合病院土浦協同病院勤務を経て、2006年から筑波大学大学院人間総合科学研究科講師となる。2009年、千葉県松戸市でかわな眼科を開設。「快適な眼で、人生に潤いを」を目指し、患者さんにわかりやすい医療を提供することを目指している。専門分野は白内障、緑内障。かわな眼科(https://kawanaganka.com/)。公式YouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCS1bdAnSyjcnZSuM38PLzKQ)。

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