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新型コロナ「ワクチン接種で副反応」報道 感染と副反応、どちらが怖い?

世の中のさまざまな事象のリスクや、人々の「心配事」について、心理学者であり、防災にも詳しい筆者が解き明かしていきます。

ワクチン接種を受けるバイデン米次期大統領(2020年12月、AFP=時事)
ワクチン接種を受けるバイデン米次期大統領(2020年12月、AFP=時事)

 新型コロナウイルスの再拡大を受けた緊急事態宣言が11都府県に広がる中、海外で既に始まっているワクチン接種が、国内で始まることを期待している人もいることでしょう。一方で、アナフィラキシーショックなど重篤な副反応の事例も報道され始め、急ごしらえのワクチンに警鐘を鳴らす意見も聞こえてきます。感染はしたくないけど副反応も怖い。さて、私たちはこの2つのリスクをどのように考えたらよいのでしょうか。

ワクチン死亡リスクは「927万分の1」?

 リスクには「数字で表せる」という特徴があります。数字にすれば比べるのも簡単です。「2つのリスク」のどちらを選ぶかで迷ったら、自分でリスクを計算してみることをおすすめします。すごく大ざっぱに言えば、「起きてほしくないことに見舞われた人の数」を「それに見舞われる可能性があった人の数」で割ればリスクが出てきます。

 最初に「起きてほしくないこと」を明確にしましょう。今回は「重症化」と「死亡」を取り上げます。はじめに、新型コロナウイルスの「ワクチンによる重症化」と「感染による重症化」のリスクを比較してみましょう。

 日本ではまだ、ワクチン接種が始まっていないので、参考として米国の数字を取り上げます。ロイター通信は米国での190万回のワクチン接種に対し、21人が激しいアレルギー反応を起こしたと伝えています。「激しいアレルギー反応」=「重症化」といっていいかは微妙ですが、ワクチンによる「激しいアレルギー反応」のリスクは「約9万分の1」と考えられます。これで1つ目のリスクが計算できました。

 次に新型コロナウイルス感染による重症化です。日本国内での重症化率は約1.6%なので、1月13日時点の感染者数約30万人に0.016を掛けると、累積4800人程度が重症化したと考えられます。この日までだけで計算しても、「日本に住んでいて、新型コロナウイルスで重症化するリスク」は「約2.6万分の1」となります。この数字は今後の感染拡大次第でどんどん大きくなります。仮に人口の1%が感染すると「6250分の1」、スペイン風邪のように人口の半数が感染すると、単純計算で「125分の1」まで上がります。

「単純計算」と書いたのは、実際にそこまで感染が拡大してしまうと、多くの人は適切な医療を受けられず、重症化率も1.6%で済まなくなるからで、実際にはもっと大きなリスクになってしまうでしょう。

 新型コロナウイルスやそのワクチンに関しては、データがまだ不十分で不確定要素も多く、限られた情報によるこの計算はかなり大ざっぱなものです。9万分の1との差も3.5倍~720倍と幅があります。しかし、感染者は今後もしばらくは増え続けそうなので、ワクチン接種のリスクが接種しないことのリスクを上回るとは考えにくそうです。

 次に、死亡リスクについて考えてみましょう。筆者が調べた限り、新型コロナウイルスのワクチン接種と因果関係が明らかな死者は確認できませんでしたが、ブルームバーグ通信は米国でワクチン接種16日後に死亡した医師について、因果関係の調査が開始されたと伝えています。同じ記事には、これまで、同種のワクチンが927万回接種されたとありますので、仮にこの1例の因果関係が明らかになったとすると、ワクチン接種による死亡リスクはひとまず、「927万分の1」となります。

「ひとまず」と書いたのは分子が「1」しかないので、例えば、この後、立て続けに数人が亡くなると、リスクは数倍に変動するからです。ただし、ワクチンの死亡リスクが「数百万分の1以下」であることは確かだといえそうです。

 次に感染の死亡リスクです。1月13日、筆者が調べた時点での国内の新型コロナウイルスによる累計死者数は4272人なので、この日までの日本での死亡リスクは「約3万分の1」です。感染者の死亡率は約1%なので、感染が人口の1%に拡大すれば「1万分の1」、半数まで拡大すれば単純計算で「200分の1」になります。従って、ワクチンの死亡リスクとの差は309倍から4.6万倍にもなります。

 感染の死亡リスクは年代によって大きく変わるので、「若いから大丈夫」と思う人もいるかもしれませんが、仮に若い世代の死亡リスクが全年代平均の数十分の1だとしても、ワクチンの死亡リスクと感染の死亡リスクの大小関係が逆転することはなさそうです。

 また、ここまでは「個人のリスク」を説明してきましたが、ワクチン接種をした人が一定以上の割合になれば、ウイルスは人から人へ感染しづらくなるので、「社会全体の感染リスク」を下げることができます。さらに、コロナ禍が早く収束して経済が回復すれば、例えば、経済的困窮による自殺のリスクなど他のリスクも下げることができそうです。

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島崎敢(しまざき・かん)

近畿大学生物理工学部准教授

1976年、東京都練馬区生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックのドライバーなどで学費をため、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授を経て、2022年4月から、近畿大学生物理工学部人間環境デザイン学科で准教授を務める。日本交通心理学会が認定する主幹総合交通心理士の他、全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがあり、「アベマプライム」「首都圏情報ネタドリ!」「TVタックル」などメディア出演も多数。博士(人間科学)。

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