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喜んでるのかニャ? 猫に着せる「服」、防寒の意味はある? デメリットは?

防寒やSNS投稿目的で、猫に服を着せる飼い主がいます。果たして、猫は喜んでいるのでしょうか。

猫は服を喜んでいる?
猫は服を喜んでいる?

 寒さが厳しい冬。寒がりの猫を飼っている人の中には「防寒のため」として、猫用の服を着せている人がいるようです。また、インスタグラムなどSNSに投稿する目的で、猫にコスプレ風の衣装を着せる飼い主もいます。猫は果たして、服を喜んでいるのでしょうか。デメリットはないのでしょうか。ガイア動物病院(東京都杉並区)院長で獣医師の松田唯さんに聞きました。

ストレスや事故の可能性も

Q.そもそも、猫に服は必要なのでしょうか。

松田さん「必要な場面はありますが、健康な猫の場合は基本的に、服を着なくても生活に支障はありません。必要な場面として一番に挙げられるのが手術後です。身近なものでいえば、メスの避妊手術後でしょうか(オスは切開する部位の問題で服は使用できません)。

避妊手術後は、手術の痕をなめて傷口が開くことを防ぐため、通常はエリザベスカラー(首に着けるラッパ状のもの)を着用させますが、エリザベスカラーを着けて行動していると壁や家具にぶつかって、普段の生活に制限が出てしまう場合があります。また、エリザベスカラーをストレスに感じて行きたい場所に行けなくなり、トイレを我慢するなどした結果、膀胱(ぼうこう)炎になってしまうこともあります。それを避けるために『術後服』というものがあります。

もっとも、術後服にもデメリットはあり、体の締めつけが嫌なのか、服の擦れる音が嫌なのか、全く動かなくなってしまう猫が一定数います。ご飯を食べなくなる場合もあります。その場合は服を脱がすと元気に動き回ります。また、術後服の傷口ガード力は100パーセントではありません。『なめる』ことには強いのですが『引っかく』ことには弱く、器用に後ろ足でおなかをかく猫には使用できません。

手術後のほかにも、乾燥を防ぐ、皮膚病を悪化させないため、精神的な要因で自身の皮膚をなめ過ぎて傷つけてしまう場合にも、服は有効です」

Q.服を防寒目的で着せる意味はあるのでしょうか。

松田さん「場合によると思います。猫はどちらかといえば暑さに強く、寒さには弱くて嫌いな傾向にあります。そのため、寒さ対策をしてあげることは大事なのですが、防寒目的で服を着させるのは少し考えなくてはいけません。なぜなら、動物は自分で服を着たり脱いだりできないからです。寒いときはいいかもしれませんが、そのまま着ていて暑くなり過ぎたときはどうでしょうか。そもそも、『服を脱げば涼しくなる』と猫が気付けるのか分かりません。

また、自分で簡単に脱げるならいいのですが、飼い主が気付かずに放っておいた場合、たとえ冬であっても熱中症の恐れが出てきます。ただし、スフィンクス種のような毛がない品種や足腰が不自由などの理由で自由に移動ができない場合、あるいは体温調節が難しくなるような病気の場合、服を着させるのも選択肢の一つになります。もちろん、そのような場合でも慎重に様子を見てあげなければいけません」

Q.逆に、服を着せることのデメリットはありますか。

松田さん「まず、服のサイズが合っていないと勝手に脱いでしまったり、中途半端に脱いで体に絡まってしまったりして、事故のもとになります。場合によっては服をビリビリにしてしまい、ほつれた糸や装飾品を食べてしまうなど誤食の原因となります。ちなみに、糸状の異物の誤食は生死に関わるものです。さらに、高いところから飛び降りたときに服が引っかかって、首をつった状態になってしまうかもしれません。

また、猫が毛をなめて、体を清潔に保つ『グルーミング(毛づくろい)』がやりづらくなることによって、ストレスがたまる可能性もあります。その証拠に、服を脱がせた直後は多くの猫がグルーミングに没頭するといわれています。ただ、それは毛並みが乱れたのを気にしているだけかもしれませんが」

Q.頭に帽子をかぶせたり、果物用ネットをかぶせたりする飼い主もいます。こちらのメリット、デメリットを教えてください。

松田さん「メリット…答えるのが非常に難しいですね。取りあえず、『かわいい』ということでしょうか。それ以外に強いて挙げるとすれば、『寒冷凝集素症』という病気が、猫にはまれにですがあります。気温が低いと血行が悪くなり、耳の先のような端の部分に血液が行き渡らなくなり、その部位が欠けてしまう病気です。そのような場合には、かぶり物を使用してもいいかもしれませんが、寒冷凝集素症になった場合には、かぶり物をする以外の治療がメインとなります。

デメリットとしては、どこかに引っ掛けてけがをする原因になることや誤食の恐れが挙げられます。また、視野が狭くなるので、運動時の事故を招く恐れもあります。もし、どうしてもそうした写真を撮りたいのであれば、写真を撮ったら、すぐに外してあげるのがいいと思われます」

Q.服を着せても嫌がらず、おとなしい猫もいるようです。その場合、猫は喜んでいるのでしょうか。

松田さん「喜んでいるのかどうか…それはぜひ教えてもらいたいところです。うれしい、悲しいが簡単に分かるようになれば、動物医療はもっと進歩する気がします。個人的な意見としては(こんなことを言うと、服を着せている猫好きさんには嫌われてしまうかもしれませんが)、よくても『別に気にしない』程度でしょうか。ファッション的な意味でうれしいと思っているようには思えません」

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松田唯(まつだ・ゆい)

獣医師

1987年、埼玉県生まれ。子どもの頃から動物好きで、高校時代に北海道で酪農体験をしたことなどから獣医師を目指す。北里大学獣医畜産学部卒業後、千葉県内と東京都内の動物病院での勤務を経て、2019年7月、ガイア動物病院(東京都杉並区)開設、院長となる。大学時代に医療の専門用語が苦手だった経験を逆手に取り、飼い主に治療法や薬について分かりやすく説明し、治療法のメリット・デメリットを理解して選択できる診療を心掛けている。ガイア動物病院(https://www.gaia-ah.com/)。

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