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杉咲花、喜劇「おちょやん」で生かされるコミカルとシリアスの同居

NHK連続テレビ小説「おちょやん」でヒロイン・竹井千代を演じる杉咲花さん。その演技の魅力について、筆者が解説します。

杉咲花さん
杉咲花さん

 杉咲花さん主演のNHK連続テレビ小説「おちょやん」が11月30日から放送を開始しました。同作は昭和の名女優・浪花千栄子さんをモデルに、大阪・南河内の貧しい家に生まれ育ったヒロイン・竹井千代が「大阪のお母さん」として親しまれる女優に成長するまでの波乱万丈の人生を描いた朝ドラです。杉咲さんは12月14日から放送された第3週「うちのやりたいことて、なんやろ」から本格的に登場。その名演技に注目が集まっています。

 杉咲さんは元々、「梶浦花」という芸名で幼い頃から子役として活躍していました。彼女は現在23歳ですが、2004年ごろから活動しているので芸歴は15年以上を数えます。

 そんな杉咲さんのターニングポイントとなったのが、2011年から放送された味の素「Cook Do」のCMではないでしょうか。杉咲さんはこの作品で山口智充さんと共演し、その娘役で出演。おいしそうに中華料理を頬張る姿が話題となり、「あの美少女は一体誰?」と一時期、うわさになっていたのを今でも覚えています。

人を引きつける“陰”の部分

「Cook Do」のCMでもすでに実力派女優としての片りんをのぞかせていますが、彼女の演技力が改めて証明されたのは映画「湯を沸かすほどの熱い愛」。この映画で、杉咲さんは主演を務めた宮沢りえさんの娘役を熱演し、第40回日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞、新人俳優賞をはじめ、名だたる映画賞で絶賛の声を受けました。同作の監督・中野量太さんは「NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 おちょやん Part1」で、杉咲さんについて以下のように語っています。

「花が演じた安澄はいじめられていて、寂しさや憂いを持ったキャラクターです。それを自然に表現するのは、人の“陰”の部分を元々持った人じゃないとできない。僕はそれを俳優の才能の一つだと思っていて、彼女は人を引きつける“陰”の部分を持っている稀有(けう)な人なんです」

 中野監督が挙げた杉咲さんの“陰”の部分は、あらゆる出演作で生かされています。例えば、2013年に放送されたドラマ「夜行観覧車」(TBS系)。杉咲さんはこのドラマで、学校ではいじめを受け、家庭では母親に暴力を振るうという非常に難しい役どころを演じていました。普段のかわいらしい笑顔からは想像もつかない迫力。それこそが唯一無二である杉咲さんの魅力ともいえます。

 先の「湯を沸かすほどの熱い愛」や「夜行観覧車」もそうですが、ラブコメディーである「花のち晴れ~花男 Next Season~」で演じた江戸川音ですら、父親の会社が倒産して貧乏な暮らしを強いられている元令嬢という役どころで、杉咲さんが演じるのはいつも暗い背景を持つ人物ばかり。杉咲さんは小柄でどこか幼く、ひとたびニコッと笑えば老若男女問わず誰からも好かれそうな好感度の高い女優なので、役とのギャップに驚かされます。しかし、それが逆に見ている人を引きつけ、同時に作品にメリハリを持たせるのです。

 筆者が最もとりこになったのは今年公開された映画「青くて痛くて脆い」で見せた杉咲さんの表情。杉咲さん演じる大学生の秋好寿乃は空気が読めず、キャンパスで孤立し、同じく独りぼっちだった、吉沢亮さん演じる田端楓とサークルを立ち上げます。しかし、徐々に彼らの活動に共感した人たちが集まり、秋好だけがサークルの人気者に。唯一の理解者だった秋好が自分を裏切ったという田端の屈折した思いが暴走していきます。

 秋好は正義感の強さゆえに周囲から浮いてしまいますが、心開いた相手には無邪気な愛情を惜しみなく注げる“陽”のキャラクター。ですが、最後の最後で田端に対して意外な表情を見せます。それは彼女を愛する田端にとっては残酷とも言える軽蔑や悲しみに満ちた表情。普段の笑顔とは対極にあるその顔に背筋が凍るとともに、女優・杉咲花のすごみを感じました。

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苫とり子(とま・とりこ)

エンタメ系ライター

1995年、岡山県生まれ。東京在住。学生時代に演劇や歌のレッスンを受け、小劇場の舞台に出演。IT企業でOLを務めた後、フリーライターに転身。現在は「Real Sound」「AM(アム)」「Recgame」「アーバンライフメトロ」などに、エンタメ系コラムやインタビュー記事、イベントレポートなどを寄稿している。

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