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子どもの「言葉の発達遅い」と焦りは禁物 個人差理解し“全体の成長”に配慮

子育て中の親にとって、わが子の成長は楽しみなことですが、中でも、言葉の発達の遅い/早いは最大の関心事ではないでしょうか。

言葉の発達は最大の関心事?
言葉の発達は最大の関心事?

 子育て中の親にとって、わが子の成長は楽しみなことです。他の子と比べて「立つのが早い/遅い」「オムツがとれるのが早い/遅い」など“比べる病”になってしまいがちでもありますが、その中でも、「言葉の発達が遅い/早い」は最大の関心事ではないでしょうか。

言葉だけにスポットを当てた結果…

「これは葉っぱよ」と母親が教えても…(立石美津子さん提供)
「これは葉っぱよ」と母親が教えても…(立石美津子さん提供)

 発語には個人差があるので、1歳ごろから話す子もいれば、3歳くらいになって急に話し始める子もいます。そんなとき、つい「言葉」だけにスポットを当ててしまい、「わが子の言葉を増やそう!」と必死になってしまう人も多いのではないでしょうか。現在19歳の自閉症の息子が、2歳で自閉症と診断されたときの私もそうでしたが、次のような強固な“おうむ返し”が染み付いていくだけでした。

母「これは葉っぱよ、葉っぱ」
子「これは葉っぱよ。葉っぱ」

母「(怖い顔になり)そうじゃなくて、葉っぱ!」
子「そうじゃなくて、葉っぱ」

母「(さらに怖い顔になり)葉っぱ!」
子「葉っぱ」

 やがて、おうむ返しが定着してしまい…。

母「何が食べたい?」
子「何が食べたい」

母「何が食べたい。カレーライスとかでしょ!」
子「何が食べたい。カレーライスとかでしょ」

母「好きな食べ物は何ですか」
子「…(無言)」

 質問の仕方を少し変えてもみましたが、途端に固まってしまいました。

 息子とタクシーに乗ったときのこと。運転手に「僕のお名前は?」と聞かれた息子は「たなかけんじ」と、運転手のネームプレートを読み上げました。おうむ返しが減ってからも、なかなか会話がかみ合いません。

うどん店での貴重な体験

うどん店で食事を楽しむ長男だったが…(立石美津子さん提供)
うどん店で食事を楽しむ長男だったが…(立石美津子さん提供)

 単語を多く知っているだけでは使い物になりません。他人とのコミュニケーションで使ってこそ、その言葉に命が吹き込まれます。つまり、言葉が増える大切な動機は「相手と関わりたい」という気持ちです。たとえ、英単語を山ほど知っていても、「外国人と話したい」という動機がなければ、英会話がなかなか上達しないのと同じです。

 自閉症の子どもは社会性の障害があるので、なかなか相手と関わろうとはしません。関わったとしても、相手が全く興味のないこと、例えば、換気扇の型番の種類を延々と話し続けたり、自分の言いたいことを言ったりするだけの、一方通行のコミュニケーションになってしまうこともあります。

 私の息子もトイレの便器の型番やバスの時刻表、「王林、ジョナゴールド、シナノスイート、世界一、ふじ…」とリンゴの品種を唱えていても、「ママ、今日はバスに乗ってお出掛けしたい」とか、「お母さん、このリンゴおいしそうだね。買って~買って~」とはなかなか言ってくれません。

 しかし、息子が5歳のとき、うどん店でこんな出来事がありました。

 食事中にあと1本、うどんの切れ端が残っている器を店員が下げようとしました。そのとき、息子が「まだ、食べる!」と叫びました。単語さえままならなかったのに、いきなり二語文(幼児期にしゃべり始める、単語2つから成る文)を話したのです。きっと「僕はこの1本を食べたいのだ! 器を下げないでくれ!」という強い動機が発語のきっかけになったのでしょう。

 この体験から、「願いをかなえるためには“言葉”という便利なものがあるんだ」と理解したのか、例えば、「カレーライス食べたい」のような要求語は次第に増えていきました。

「全体の成長」に目配りを

 オウムに「おはよう」と声を掛けると「おはよう」と答えてくれます。しかし、「今日は顔色がいいね。ぐっすり眠れたんだね」とは答えてくれません。もうすぐ成人する息子は、いまだにおうむ返しをします。私が「行ってらっしゃい」と見送ると、息子は「行ってらっしゃい」と玄関から出ていきます。おうむ返しの「行ってらっしゃい」でも、そこにはちゃんと心があることが表情から見てとれるので、それでもよいと今では思っています。

 よく考えると、「おはよう」と声を掛けられたら「おはよう」、「こんにちは」には「こんにちは」、「おやすみなさい」には「おやすみなさい」と返すのに、「行ってらっしゃい」と言われたときは「行ってきます」、「おかえり」と言われたときは「ただいま」と、置かれた状況によって言い回しを変えなくてはならない日本語は、外国人にとって難しいのと同様、自閉症の子にはハードルが高いのかもしれませんね。

 言葉だけにスポットを当てず、子どもそれぞれの全体の成長の仕方を見ていくことが大切だと思います。

(子育て本著者・講演家 立石美津子)

立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。著書は「1人でできる子が育つ テキトー母さんのすすめ」「はずれ先生にあたったとき読む本」「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」など多数。ノンフィクション「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)。

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