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面接の質問「うちで何がしたいですか」に潜むワナ【就活・転職の常識を疑え】

就職活動や転職活動には、さまざまな「常識」があります。しかし、それは本当に正しいのでしょうか。企業の採用・人事担当として、2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「うちで何がしたいですか」はトラップ?
「うちで何がしたいですか」はトラップ?

 中途採用では、やるべき仕事が最初から決まっているため、あまり聞かれないかもしれませんが、新卒の採用面接でとてもよくなされるのが「うちで何がしたいですか」という質問です。この極めてポピュラーな質問が、実はトラップ質問(ひっかけ問題)だと言えば皆さんは驚きますか?

 企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「曖昧な回答はマイナス」、実は逆?

 このような質問に対しては、普通に、素直に考えれば、具体的に「ここの部署でこんな仕事をやってみたいです」と答えるでしょう。「曖昧に答えてしまうと、志望度や熱意が低いと思われるのではないか」と不安に思う人も多いと思います。

 ところが、実際にいろいろな会社での人物評価を見ていて気付いたのは、実は「具体的にやりたい仕事を答えるのがよい」「曖昧な回答はマイナス」という“常識”とは、「逆」であることも多々あるということです。あまりにも具体的にやりたいことを主張してしまうと、あまり良い印象を与えないことがあるのです。

「何がしたいか」と聞かれれば、したいことを具体的にしっかり答えるのがよいと思うのが普通でしょう。ですから、「この質問は気を付けなくてはならないトラップ質問だ」と申し上げたのです。一体、なぜこのような評価になることがあるのでしょうか。

日本企業は「メンバーシップ型採用」

 それは、日本企業の多くが職種を限定しない採用、いわゆる「メンバーシップ型採用」と呼ばれる「仲間探し」のような採用を行っており、仕事について、時々に応じて振られた役割を柔軟にこなしてもらうことを期待しているからです。

 そんなときに、「ぼくはこの仕事しかしたくありません」とやりたい仕事を強く主張する人がいると「協調性に欠ける」「役割意識が低い」「貢献欲求が低い」などと思われてしまうのです。「あいつは仕事を選ぶやつだ」というのは、日本企業の多くではネガティブな評価の言葉です。

 では、どう答えてほしいのか。それは「自分に合ったと思って任せてくださる仕事であれば、どんな仕事でも頑張ってチャレンジしてみようと思います」といったことです。そう回答すれば、多くの会社はひそかに喜ぶことでしょう。なにせ、会社や職場を主と考えて、自分の意向は二の次で貢献してくれるというのですから。

 一方で、学生の側も「これといって具体的にやりたいことはない」という人も多いのが現状ですから、素直になれば自然にそう答えるかもしれず、実は「WIN-WIN」と言ってよいかもしれません。

専門性が求められる時代

 悲しいかな多くの場合、これが現実ですが(「うちは違う」というところはごめんなさい)、個の専門性が求められる現代において、そんな採用や就職でよいのかは甚だ疑問です。

 応募者の側には、最終的にどう評価されようとも、やりたいことが具体的にあるなら主張して自分の専門性を磨く仕事につくべきだと言いたいです。企業側には、カルチャーフィットは大切ですが、専門人材がたくさん必要になるのであれば、面倒くさがらずに「仕事を選ぶ人」をもっと重視しましょうと言いたいです。

 さて、読者の皆さんの興味ある企業は、どのような姿勢でこの質問をしているでしょうか。ぜひ見極めてみてください。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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