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「台風」で自宅の屋根が吹き飛び、近所に損害…どのように責任を問われる?

台風シーズンを迎えて、自宅の屋根や瓦が破損して吹き飛ばされ、隣の家屋に被害を与えるケースも決して人ごとではありません。損害を与えた場合にどうしたらよいのか、弁護士に聞きました。

台風15号で屋根瓦が吹き飛んだ民家(2019年9月、時事)
台風15号で屋根瓦が吹き飛んだ民家(2019年9月、時事)

 台風18号が日本列島に接近していますが、9月上旬に上陸した台風15号の被害による影響が、千葉県を中心にいまだに続いています。台風15号の被害を巡っては、家屋の屋根や瓦が破損して吹き飛ばされ、隣の家屋に被害を与えてしまったという事例もありますが、本格的な台風シーズンを迎えて、これらは決して人ごとではありません。

 もし、暴風で自分の家の屋根や瓦が損壊して吹き飛び、近所の家屋に損害を与えた場合、どうしたらよいのでしょうか。補強対策をしていても、責任を問われるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

民法717条が定める「瑕疵」とは

Q.台風の暴風で、自分の家の屋根が損壊して吹き飛び、隣の家屋の一部が損壊して居住スペースの制限など不自由な生活を強いることになった場合、隣家にはまず、どのような対応をしたらよいのでしょうか。

牧野さん「法的責任の有無は別にして、まず、謝罪の気持ちは伝えるべきだと思います。つまり、過失を認めて補償する趣旨ではない、『ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません』『ご不便(ご迷惑)をおかけして申し訳ございません』といった謝罪の言葉は伝えるべきです」

Q.屋根が損壊して吹き飛んだ場合の法的責任について教えてください。

牧野さん「屋根などが飛ばされてしまった家の占有者(賃貸の場合の借家人)や所有者(賃貸の場合は大家。占有者と所有者が同一の場合もある)に、損害賠償責任があるかどうかがポイントになります。

民法717条には、『土地の工作物の設置または保存に瑕疵(かし)があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない』などとあります。

ここでいう瑕疵とは、通常備えるべき安全性を欠くことをいいます。通常の台風なら耐えうる程度の屋根の補強対策はしていたが、予見し得ない想定外の強さの台風で周囲の家もほとんどが屋根を損傷していたような場合は、そもそも瑕疵がなかったと見なされ、占有者、所有者ともに賠償責任を負わない可能性があります。

それに対して、予想される通常の規模の台風によって、通常備えるべき安全性を欠くことにより住宅の屋根が飛ばされた場合であれば、占有者または所有者が被害者に対して損害賠償責任を負う可能性があります」

Q.屋根を吹き飛ばされたのが新築の家だったり、「風水害に強い」と聞いて賃借・購入したりした家の場合はどうでしょうか。

牧野さん「民法717条のただし書きにある通り、まずは、家の所有者が被害者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

一方で、民法717条には3項として『損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者または所有者は、その者に対して求償権を行使することができる』とあります。被害者に対する賠償責任を負った所有者が、通常備えるべき安全性を欠く住宅を造った建築会社に対して損害賠償を請求できる可能性があるでしょう」

Q.台風によって屋根が吹き飛び、近隣の家屋に被害を与えてしまった場合、精神的苦痛について慰謝料を請求される可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「物的な損害に対しては、『大切な故人の遺品が壊れてしまった』など非常に例外的な場合を除いては、精神的苦痛の慰謝料について損害賠償責任を負うことは通常ないでしょう。精神的苦痛の慰謝料というものは、通常は人身の損害賠償責任が認められた場合に発生するものです」

Q.台風などの自然災害で、思いがけず自分が近所に被害を与えてしまうことに備えて、保険や法的な対応など、事前にどのような準備をすることができますか。

牧野さん「適切な保険に加入することはもちろん、通常、予想される規模の台風に対して、自分の家が十分に耐久性があるかどうかを専門家に定期的にチェックしてもらい、不備があれば安全対策を施しておく必要があるでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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