夏の暑さ対策「打ち水」、もともとは茶の湯の作法だった? いつから現在の形に?
涼を得るために行われる「打ち水」ですが、もともとは「茶の湯」の礼儀作法として始まったそうです。どのような目的で行われていたのでしょうか。

本格的な夏を迎えると、ひしゃくなどを使って道路や庭先に水をまく「打ち水」のイベントが行われるようになります。地面の熱を奪って涼しさを感じる昔ながらの知恵ですが、近年は都市部のヒートアイランド現象対策として、その効果が見直されています。しかし、この打ち水、最初から涼を得る目的で行われたのではなく、茶の湯の礼儀作法として始まったそうです。和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。
お客様に対するおもてなしの「こころ」
Q.打ち水の習慣は、いつごろ、何がきっかけで始まったのですか。
齊木さん「打ち水は、安土桃山時代の茶人・千利休が確立した『茶の湯』がきっかけといわれています。利休の100年忌の1690(元禄3)年に成立した古伝書『南方録』には『三露(さんろ)』と呼ばれる、茶の湯における打ち水の作法が記されています。
奈良時代の『万葉集』や平安時代の『古今和歌集』などの和歌集には、川や滝といった水辺の涼しさ、夕立の後の爽やかさを詠んだ歌が残されていますが、打ち水の記載はありません。これらの時代には、まだ行われていなかったと考えられます」
Q.現在の打ち水は、水をまき、その気化熱を利用して周囲の気温を下げることを目的に行われます。茶の湯の作法としての打ち水は、どのような目的で行われたのですか。
齊木さん「茶の湯での打ち水は、お客様をもてなしたいという『こころ』を打ち水という『かたち』で示した礼儀作法です。打ち水は穢(けが)れをはらい、涼を呼び、美しく門構えをしつらえるための歓迎の印とされ、歓迎の気持ちをお客様に感じてもらう目的で、打ち水によるおもてなしが行われていました」
Q.現在のように涼を得ることを目的に打ち水が行われるようになったのは、いつごろからですか。
齊木さん「1700年前後、江戸時代の元禄期に入ると俳諧や浮世草子に打ち水が登場し、この頃から、涼を得る目的で一般に広がったようです。江戸時代の庶民の住まいは、奥行きのある長屋が一般的です。長屋は裏庭に面していることが多く風通しがよいため、打ち水をして涼しくなった空気を長屋に取り込むことで厳しい暑さをしのいでいました。
また、見た目にも涼を呼び込む江戸っ子の粋な発想が、打ち水を広げていきました。涼を呼び込む生活の知恵であるとともに、打ち水が隣近所のコミュニケーションの一環にもなったのです」
Q.現在の和菓子店や和食店、庭のあるような高級懐石料理店では、開店前に店先に打ち水を行うケースもあるそうです。なぜ行うのでしょうか。
齊木さん「茶の湯と同様、日本の伝統文化を重んじるお店では、客を招き、もてなすための準備として行っているところもあります。玄関は、外からやってくる客を迎え入れるための出入り口であり、その通り道は清浄であることが求められているからです。
水をまいて地面に水分を含ませることで、土埃(つちぼこり)が舞いにくくなり、玄関をきれいに保って客を迎えることができます。また、水には古くから神聖な力があると信じられており、物理的な清浄さのみならず、穢れをはらう力も意識してまかれます。穢れをはらい、涼を呼び、美しくしつらえることで来客に歓迎の意思を示すために行います」
Q.打ち水をする場合、1日のいつごろがよいのでしょうか。打ち水の効果的な方法も教えてください。
齊木さん「打ち水は、朝・夕の比較的涼しい時間帯に行います。暑いからといって、日中に炎天下のアスファルトに打ち水をすると、直後は心持ち涼しくなりますが、アスファルトが黒くなって太陽熱の吸収が高まり、かえって暑くなってしまうことがあります。
効果的な打ち水の仕方は、木のおけに水を入れ、ひしゃくで水をくみ、玄関先や庭に1平方メートル当たり約1リットルの水をまきます。朝と夕、日陰を狙ってまくのが効果的です。日中にどうしてもまきたい場合は必ず日陰を狙いましょう。また、熱中症を防ぐために帽子などを着用して外へ出る、などの対策も必要です」
(オトナンサー編集部)
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